難波麻人

僕のささやかな奮闘記をエッセイにしたり、たまに短い物語を書きたいと思います。

難波麻人

僕のささやかな奮闘記をエッセイにしたり、たまに短い物語を書きたいと思います。

マガジン

  • 自由律俳句

  • エッセイ

    今までの日々や、ささやかな僕の奮闘を書いていければと思います。

  • ショートショート

    僕は電車の待ち時間が異様に嫌いなので、そんな時に読めるものが書ければと思います。

  • BAR HOPE

    小さなBARに訪れる風変わりな客達の、お酒にまつわるショートストーリーを書いていきます。

  • 物語

    小さな物語や、小説も書いていければと思います。

最近の記事

「記憶冷凍」

脳が人体に与える影響は不思議なものである。 近年の冷凍食品のクオリティーは飛躍的に上がり、今ではレストランの味をレンジでチンするだけで楽しめるようになった。さらにはその手軽さからダイエットブームとの相性も良く、進化を続けた結果ついには食事の記憶だけを冷凍させることにまで成功した。 オムライスの記憶冷凍食品をスーパーで買えば、オムライスを食べた記憶だけを脳に刻むことが出来る。これによって脳は食事を済ませたと勘違いをして、体は空腹を感じなくなるのだ。 女は酷く疲れて

    • 「#24 百円ショップの募金箱に千円」

      考えごとをしながら自転車を駐輪場から出したせいで、なんとそのまま自転車を押して目的のカフェまで歩いて行ってしまったことがある。 店に到着して自転車の鍵をかけたところで「うわ、自転車乗るの忘れてた」と我に返ったのだ。 スマホで時間を確認すると見事に15分ほど遅刻していて、ずっと自転車を押しながら歩いたせいで汗だくにもなっていた。 急いで店に入り、待ち合わせしていた友人に事の顛末を話したのだが「そんな事ある !?」とあまり信じてもらえなかった。 昔から考えごとに集中す

      • 「世界のバランス」

        大阪から東京に仕事で来た後輩と久しぶりに会う約束をした。 あまり東京に来たことがない後輩を案内して回り、お昼には僕がオススメのラーメン屋へ連れて行った。その店はラーメンも勿論美味しいのだが、なによりも炒飯が絶品で後輩にも絶対食べて欲しいと思い、ラーメンの大盛りを頼もうとしていた後輩を説得してラーメンセットの食券を二枚と、ラーメン大盛りの食券を購入した。 「僕そんな、どっちも食べれますかねぇ」と心配する後輩に、「セットのは半炒飯やから大丈夫や、無理なら俺が食べたるから!」

        • エッセイ 「真夜中の怪談」

          夏の気配を感じる蒸し暑い夜に、飲みながら怖い話を聞く機会があった。 話してくれたのはTVやライブなどでも怪談話を披露したことのある人で、子供の頃から霊感のある自身の体験談を中心にいくつか聞かせてもらったのだが、話を聞いているうちにどんどんと引き込まれていく臨場感や、おどろおどろしいだけではない妙なリアリティーがあり、大人になってから怪談話で寒気がするほど怖いと思ったのは初めてだった。 「やはり本物は違うなぁ〜」と間近で体験したからこそ感じたのだが、もう一つそう感じた理由が

        「記憶冷凍」

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        • 自由律俳句
          24本
        • エッセイ
          38本
        • ショートショート
          13本
        • BAR HOPE
          5本
        • 物語
          6本

        記事

          「低音の響き」

          「難波さん、スマホで音楽聴くイヤホンにいくらまで出せます?」 一緒にいた後輩から突然そう声をかけられた。今使ってるのはプレゼントで貰ったものだが、自分で出すなら正直三千円か出せても四千円ぐらいだと僕が答えると「僕安いの駄目なんですよねぇ〜音質とかこだわっちゃうんで」と、僕が音質にこだわりがないとまるで知ってたかのような反応が後輩から返ってきた。そして後輩はそこからイヤホンのうんちくを僕に語り始めたのだ。 こんな強引なやり口があるだろうか?イヤホンのうんちくを誰かに

          「低音の響き」

          「#23 ラーメンを頼んでも炒飯のスープは来る」

          町中華やラーメン屋で炒飯の単品を注文すると、ネギが少し入った鶏ガラベースのスープが付いてくることが多い。 シンプルながらコク深い味わいは馬鹿に出来ない美味しさであり、「せっかくだから、お味噌汁代わりじゃないけどこれどうぞ!」みたいな店側の気遣いを感じるとても良いサービスである。たまに溶き卵や野菜の切れ端などが入ってる店もあり、ちょっと得した気分にだってさせてくれる。 ただラーメンと炒飯のどちらも食べたい時に、半炒飯やセットメニューがある店とやっていない店があり、やっ

          「#23 ラーメンを頼んでも炒飯のスープは来る」

          「#22 このまま歩けば試供品をもらえる」

          4月8日に誕生日を迎え44歳になった。 今まで特に年齢など気にせずに生きてきたが、歩いていてふと自分の年齢を考えた時に、44かぁ〜、えっ!44歳なんっ!?と驚いてしまうことがある。平日の昼間にスニーカーで街中をふらふらと歩いている44歳は僕だけなのではないかと辺りを窺ってしまうようになった。 人それぞれ歩幅も歩き方も違うものだが、やはり大人としてこれからは成熟していきたいものである。その一歩として、ずっとカードのSuicaを持ち歩いていたがもう今年はモバイルSuicaに

          「#22 このまま歩けば試供品をもらえる」

          「#21 排気ガスで舞う桜吹雪」

          いつも花見の時期になると道路は人でごった返し、信号の設置された横断歩道にも警備員や警察官によって規制が張られる。 ただの通勤経路として利用しているだけの僕も漏れなくその規制の網にかかり、警備員の怒号に近い交通誘導の指示に花見客と肩を寄せ合い従っている。信号が青に変わり歩き出すが、信号待ちで並ぶ列の真ん中ぐらいにいた僕の目の前で「もう信号が変わりますっ!」というひび割れた怒号と共に、警備員によって素早くロープが張られてしまう。 「いやまだ変わらへんから。もう二列は黄色にな

          「#21 排気ガスで舞う桜吹雪」

          ショートショート 「能力者」

          エライジャ・クレイグのロックを注文してから腕時計を見ると、もう22時を過ぎていた。今日は朝から仕事で色んな人間の話を聞いてる。違う人間から同じような内容の話を聞き、似たような質問を繰り返すだけのくだらない作業。 俺は後頭部に鈍い痛みを感じながら、ここで何杯か酒を飲んで頭をほぐせばそのまま帰ってぐっすり眠れそうな気がしていた。 ウィスキーを一口飲んだところで店のドアが開き、スーツを着た中年の男が入って来る。男は常連らしくマスターと挨拶を交わすと、俺の二つ隣のカウンターの

          ショートショート 「能力者」

          「BAR HOPE」

          ⑤マティーニ〜 ビル・エヴァンスのピアノをかき消すような彼女たちの笑い声が扉の外から聞こえてくる。 莉子さんと亜美さんは一件目でワインをしこたま飲んだその帰りに、いつだって大笑いしながら二人で店にやって来る。 彼女達におしぼりを渡しながら「今日も楽しそうですね」と声をかけると、二人はまた大笑いしながらそれを受け取り、いつも揃ってマティーニを注文する。 マティーニは「カクテルの王様」と呼ばれるほど歴史のあるカクテルであり、アメリカのホテルで働いていたマルティーニとい

          「BAR HOPE」

          「帰省」

          もうどれくらいライブに出ていなかっただろう。舞台に立つ感覚が鈍っているというよりも、自分が舞台に立っていたことが想像できないような感覚だった。 中学時代からの友人が、地元の寝屋川で開催する朗読ライブにゲストという形で声をかけてくれたのだが、必要なものは全部分かっているのにそれが一つも手の中に無いような心理状況で、何から始めればいいのか順番さえ選べずにいた。 だからといって感覚を戻すために、今さら中野や下北のインディーズライブにお願いして出演させて貰う訳にもいかない。皆

          「萱島祭り」

          お気に入りのTシャツに着替え家の外に出ると、むっとした熱気が体に纏わりついてきた。胸の高鳴りをごまかそうと、顔を差す西日にわざとらしく顔をしかめた。 短髪に整髪料をなすり付けた髪型が崩れぬように、Tシャツの脇や背中の部分が汗で濡れてしまわぬように、待ち合わせした橋の上まで、ゆっくりとした速度で自転車を漕ぐ。 昔通っていた幼稚園を通り過ぎ、その先にある神田神社の前を右に曲がると僕らの通う中学の校舎が現れる。夏休みに入って人気のない校舎は静かに佇み、グラウンドでは昼間の激

          「萱島祭り」

          「花瓶の葬式」

          花瓶を割った。 その花瓶は僕の友人がまだ若く金もない頃に、それでもどうしようもないほどに魅了されて購入したものである。それから十年以上大事に使っていたその花瓶を、友人は僕の働くBARのカウンターに置いてくれと持ってきた。それは友人がもうその花瓶に飽きたとか、もっと高価でいいものを見つけたからという理由ではない。友人は自分の大事な花瓶と、その想いを僕に託したのだ。そして僕は、その花瓶を割った。 その日は年末で、正月休みに入る前の在庫点検や大掃除をするために店を訪れてい

          「花瓶の葬式」

          「#20 粉チーズを小皿で出される誤算」

          トマト系のパスタに粉チーズなんて、かければかけるだけ美味しい。 イタリアの偉人がたしかこんな名言を残してはいなかっただろうか、そう思うほどトマト系のパスタと粉チーズの相性は抜群である。初めてパスタに粉チーズをかけたのは、家族でファミレスに行ってトマトパスタを頼んだ時ではないだろうか。父親に「これかけてみろ、うまいから」と言われ食べた時の衝撃を、今でも鮮明に憶えている。 もうすでに完成されていると思っていたトマトソース美味しさが激変するのでなく、爆発的に増幅する衝撃を受

          「#20 粉チーズを小皿で出される誤算」

          「限界突破」

          東京から大阪へ車で向かうことになった。メンバーは僕と友人、そして友人の呼んだ後輩の三人である。色々と運ばなければいけない荷物があったのでバンタイプの大きな車を借り、僕らは朝早く出発して大阪を目指した。 東京から大阪までは車で早くても5〜6時間、安全を考慮して休憩を取りながらとなると8時間ほどかかってしまう。車の運転は見た目よりずっと神経をすり減らすもので、普段運転などしない僕らにとってはかなりの集中力を必要とする。そんなこともあり、通常は免許を持った者が二人以上いて、交

          「限界突破」

          「今年最後の美容院」

          今年の一月から新しい美容院に通い始めている。去年まで髪を切ってくれていた美容師さんが年内いっぱいで離職するということで、なるべく家の近くにある美容院を探したら居心地のよさそうな店を見つけることができた。 去年まで担当してくれていた美容師さんは、「難波さんのカットのデータは残しときますので、次回指名なしでこのまま来ていただいても引き継げるようにしときます」と言ってくれたのだが、新しく担当になる美容師さんへの心配ではなく、そのまま通い続けた場合お店の美容師さん達に自分がどう思

          「今年最後の美容院」