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奇妙な千文字小説

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イラスト/ちぃ(note.mu/selkie)
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記事一覧

白猫

白猫

 朝、家を出ると、ふと背後から視線を感じた。振り返ってみると近所の飼い猫が塀の上からこちらを見ている。
 白く短い毛並みに、右眼が青、左眼が黄色の雄猫である。以前、名前を聞いたのだが教えてはくれなかった。だから、とりあえずシロネコと呼んでいる。
 いつものように私は「おはよう」と、シロネコに挨拶をした。すると彼は、私をじっと見据えたままこう言った。
「オマエ、アタマノテッペンヤバイゾ」
「え? て

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キーポイント

キーポイント

 僕はベンチに独り座っていた。少し離れた場所には、10羽ほどの鳩の群れ。その向こう側には、ベビーカーを押した若いママさん達が、他愛もない話に花を咲かせている。
 今日は何曜日なのだろう? もうどのくらい時間を、この公園で潰してきたのだろう? 初めは新鮮にさえ思えたこの風景が、いつの間にか見慣れた日常へと変わって行く。
 僕は何を求めているのか? ここで答えが見つかるのだろうか?

 きっかけは

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猿

 小さな猿山の大将は、いつも隣の山の青々と繁る自然が気になります。優しき周りの猿はこう言います。
「貴方はいつも、よくやってくれていますよ」
 しかし彼はそれに耳を貸そうとしません。「こんなはずじゃないんだ」と不満を漏らしてばかりです。
 そして次第に、心に闇を宿すようになります。怒り、妬み、嫉み、僻み。そんな負の感情が、彼の心を埋め尽くしていったのです。いまとなっては誰も彼には近付こうとはしませ

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深夜のコンビニエンスストア

深夜のコンビニエンスストア

 深夜のコンビニエンスストア。そこは様々な人たちが集う場所。ある者は2時間くらい雑誌を立ち読みし、またある者はここを待ち合わせ場所に使う。酔っ払いのサラリーマン。不機嫌なタクシードライバー。明るく挨拶を交わす常連客。そして、一人きりの店員。つまり僕。
 就職がなかなか決まらない僕は、ぼんやりとした不安感を抱えていた。卒業までに就職が決まらなければ、そのままここでバイトをすることにしていた。
 店は

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ポケットベル

ポケットベル

 携帯電話が普及する前、ポケットベルすなわちポケベルの時代があった。
 僕が持っていたポケベルは、電話番号のみが表示されるものであった。後にカタカナや漢字なども表示されるものが販売されるようになったが、その頃には携帯電話を使い始めたため、後にも先にもポケベルはその一台のみの使用となった。
 ある日、見慣れない番号がディスプレイに表示された。
 もちろん、電話番号と一緒に名前を登録する機能などもない

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妖 怪

妖 怪

 昨日、仕事でパソコンに向かっていると、ある種の違和感を覚えた。デスクトップ上に消したはずの文書があるのだ。あれ? おかしいな。そう思いながらも、それほど気に留めることなく、私はその文書をゴミ箱へ捨てた。
 だが、今日になってみると、捨てたはずのその文書がまたあるではないか。ああ、なるほど。そうか、そういうことだったんだ。可笑しさが込み上げくるのを、私は覚えずにはいられなかった。
 以前、パソコン

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女 神

女 神

 噂を聞いたのは、バイト先の惣菜屋であった。
「その洞窟の奥には女神がいて、望みをなんでも叶えてくれる」

 俺は大学を卒業後、一般企業に勤めるものの、すぐに辞めてしまっていた。とりあえず親戚の紹介もあり、仕方なく惣菜屋でバイトをしていたのだ。
 とにかく、将来とか人生とか、そういったものを深く考えることができずに、ただ消化するだけの毎日が続いていた。
 その噂も、普段の俺ならきっと興味を示す類

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人生相談

 昔から、人の相談に乗ることが多い。例えば思春期の頃には、大した経験など無いにも関わらず、恋愛相談を持ちかけられていた。それは社会に出てからも変わらなかった。恋愛だけではなく、仕事の悩みなども聞くようになった。 
 なぜ、皆は私などに相談を持ちかけてくるのか? 
 その理由について、私は見当が付いていた。それは、よく話を聞くからである。相談というと、何か的確な答えを提示しなければならいように思われ

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におい

 え~アナタ、いま、ウソをつきましたよね? いやいや、ワタクシには分かるんでございますよ。それは別に、アナタがお話しになるときに「右上の方を見た」からとか「鼻に手をやった」からとか、そんなんじゃございませんよ。もちろん、神がかりな状態だとか、トランス状態になって、いわゆる『知覚の扉』を開き、宇宙や人類の過去から未来までの歴史全ての記録である『アカシックレコード』にアクセスしたような、そんな大袈裟な

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言いがかり

“なりきり厨”
自分もしくは対象をマンガやアニメなどの人物に「認定」し、
そのキャラクターの設定を押し付ける集団のこと
~pukiwikiより

 彼は、本屋で二人の男たちに声をかけられた。
「アキラ!」「おお、アキラだ」
 しかし彼には、その二人に見覚えはない。
「あの、どなたかと間違っていませんか?」やんわりと言ってみる。
「え? 何、言ってんの? 間違える訳ないだろう?」
 髪を逆立てた男が

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正義の行方

 男は悩んでいた。正義のために内部告発をすべきかどうかを。内部告発をすれば、問題は良い方向へと傾くかもしれない。しかし、自分自身の未来は明るくは無いだろう。しかも、問題自体さへも有耶無耶になってしまう恐れもある。妻子のある身。すべてを投げ打ってまで、行動を起こすべきであろうか。

 少女は悩んでいた。もう、いじめに耐えきれない。だから、自殺してしまおうかと。友達も先生も、親すらも信用できない。誰も

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『桜の樹の下には……』
 こんなセリフを、梶井基次郎の小説で、読んだことがある。果たして今年の「桜」を、僕は、どんな気持ちで眺めるのだろうか?

――その日の僕は、荒れていた。
 これで、もう、4つ目だ。落ちた大学の数だ! しかも、滑り止めに受けていた大学にすら落とされるとは! もう、後が無い……。2浪なんてできやしない! 2次募集の大学を探すしか、ないのだ。
 昨日、高校の友人のツチヤが、電話で

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