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あおり運転と精神医学: ロードレイジ(road rage)と精神障害の関係 ~海外文献の紹介~

皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。

読者の皆様の中で、”あおり運転”を受けたことのある方はいらっしゃいますか?

小生は事故に発展しそうなあおり運転を受けたことはありませんが、それでも「後ろの車、近すぎ…」などと思うことは時々あります😱

ご存知のように、ここ数年TVやネットで”あおり運転”が社会問題となっていますが、おそらくあおり運転自体は昔からあったと思います。

スマホやドライブレコーダー等の記録デバイスの普及が、あおり運転という問題行為を社会問題として炙り出した…というのが実情ではないでしょうか。

それにしても煽り運転をする人の心理は常人では理解し難いものがあります。

「スピードが遅い」「車線変更」「合流トラブル」「追い越し」など理由は様々あるでしょうが、「その行為(あおり運転)」と「結果(事故・逮捕)」がおよそ釣り合うようには見えません。

冷静になれば「あおり運転は愚かな行為」と気づくはずですが、人は何故このような愚行を繰り返すのでしょうか?

そんなことを考えながら論文検索をしていたところ、あおり運転に関連する興味深い文献を発見いたしました。

この文献では運転中における”怒りの制御困難、すなわち”ロードレイジ(road rage)”について、精神医学的に解説しております。

今回はこのロードレイジに関する海外文献をもとに、”あおり運転”の心理・精神状態についてご紹介いたします(今回の記事もコンパクトです)!


【研究紹介】

Road Rage: What's Driving It? Sansone RA et al., Psychiatry, 2010

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20805914/


<目的>

ロードレイジ(運転中の怒り)を精神疾患や心理的要因の観点から総括する。

<方法>

記載なし(少なくともシステマティックレビューではない)。

<定義>

ロードレイジ(Road Rage)の定義: ロード・レイジは、運転中に不当な挑発と認識されたことに反応して起こる思考・感情・行動である。

<結果>

以下に調査した内容を項目ごとに記載する。

1.ロードレイジの有病率: 1,395人を対象としたカナダの電話調査の結果によると、31.7%が他のドライバーに怒鳴ったり罵ったりしたと報告し、2.1%が誰かを傷つけたり車を傷つけたりすると脅迫したと報告している。

2.ロードレイジをする人の特徴: ロード・レイジを起こす人物は若年層(平均年齢33.0歳)および男性(96.6%)が多い。

3.ロードレイジをする環境的要因: 1日の走行距離が長い、道路が混雑していること、銃器を携帯していること、建物の看板など人の目が届かない場所で起こりやすい。

4.ロードレイジをする人の心理的特徴: 怒りの矛先を他者に移す傾向、責任を他者になすりつける傾向、、報われないストレスの多い雇用状況(仕事の割に報酬が少ない人)、高レベルの一般的ストレスがあげられる。

5.ロードレイジをしやすい精神疾患: アルコール依存症、薬物乱用者、境界性人格障害、反社会性人格障害。特にPDQ-4(personality diagnostic questionnaire)を用いた調査によると、境界性パーソナリティ障害の有病率は、ロードレイジを起こしたことがある人は起こしたことのない人よりも有意に高かった(24.8%対9.8%)。

<結論>

ロードレイジは性格、環境要因、心理要因だけでなく、一部の精神疾患とも関係が深い。


【鹿冶の考察】

いかがでしょうか?大体予想通りの結果で、それほど意外性のない結果ですよね。

要するに、「切れやすい人が、運転中にストレスを感じるとロードレイジ(あおり運転)を起こす」という内容です(当たり前ですね)。

年齢に関しても感情コントロールが未熟な若者、そして一般的に女性よりも男性の方が攻撃性が高いので、この論文の内容は妥当のように思われます。

心理学的は「他罰傾向のある人」「仕事上の不満」、状況因としては「長時間走行」「渋滞」などストレスを感じやすい状況…と、これも了解可能な結果ですよね。

そして、精神医学的には「アルコール/薬物依存」「境界性パーソナリティ障害」「反社会性パーソナリティ障害」がロードレイジを起こしやすいということなのですが、これらの疾患の多くが”感情をコントロールできない”という点で共通するので納得の結果でした。

<その他の要因>

…と、これだけでは物足りないので、海外のサイトにあった「ロードレイジ(あおり運転)のリスクファクター」について追記いたします。

1.年齢: 先ほども若者がロードレイジを起こしやすいと紹介しましたが、19歳以下の場合、他の年齢層に比べて4倍ロードレイジを起こしやすい
2.時期: 季節は夏、そして週末にロードレイジが起きやすい
3.時間帯: 午後5時から7時、つまり帰宅時間に多い
4.車種: オープンカーにおいてはコンバーチブルを上げた時の方が、降ろした時よりもロードレイジを起こしやすい(つまりオープンカーだとロードレイジは起こしにくい)。

これはNHTSA(national highway traffic safety administration)のホームページからの引用ですが、とても興味深いデータですね。

運転手の性格を変えるのは難しいのですが、夏は運転を控える、帰宅時間をずらす、車をオープンカーにする…、という対策をとればあおり運転(ロードレイジ)は減らせるかも知れません🤔


<あおり運転は病気?これから検証が必要な説>

さて、上記以外のあおり運転の要因として、「正義感が強い人」「自分の運転に自信がある人」「高級車に乗っている人」などの説があります。

しかし、残念ながらこれらを裏付けるデータを見つけることはできませんでした

「正義感の強い人」については、前述の”怒りの矛先を他者に移す傾向”、"責任を他者になすりつける傾向”と裏表の関係なので、矛盾はないようにみえますが、「自分の運転に自信がある人」「高級車に乗っている人」については今後の検証が必要ですね。

それから、ちょっと興味深い説(提案)ですが、なんと海外では”あおり運転”を病気と見做すべしと説く学者もいるようです。

精神医学では精神疾患と犯罪と結びつけて”障害”と見做すことがよくあります。

例えば、盗み癖については窃盗症、覗き(デバガメ)については窃視症、放火については放火癖などという病名がついております。

犯罪を何でもかんでも病気と見做すことの是非はありましょうが、犯罪行為という”異常”と精神障害という”異常”の共通点と違いを探る試みは、学問的に重要なことだと思います。


【まとめ】

・あおり運転の原因となるロードレイジ(road rage: あおり運転)の原因について解説しました。
・精神医学的には「「アルコール/薬物依存」「境界性パーソナリティ障害」「反社会性パーソナリティ障害」がロードレイジ(あおり運転)を起こしやすいそうです。
・またNHTSAのデータによると、夏、週末、夕方の時間帯にロードレイジ(あおり運転)が起こりやすいそうです。
オープンカーではロードレイジ(あおり運転)は起きにくいそうです。
・あおり運転(あるいはロードレイジ)を精神障害に分類しようとする試みがあるようですが、皆様はどのように思いますか?

↓あおり運転をテーマにした映画といえば、スピルバーグ監督作の「激突!」を思い出します!


【参考文献など】

1.Road Rage: What's Driving It? Sansone RA et al., Psychiatry, 2010

2.Road Rage statistics 2022

3.Road Rage: Recognizing a Psychological Disorder. Ayar AA, J Psychiatry Law, 2006

https://www.researchgate.net/publication/289919079_Road_Rage_Recognizing_a_Psychological_Disorder


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