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小説『クルイロ~翼~』前半を全文無料公開

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天才肌のサッカー少年ボリスと、彼の活躍を見守り、インスピレーションの源であり続けるアレクセイとの、十数年間にわたる独特の友情関係を、社会主義体制崩壊後の激動する社会情勢とシンクロ… もっと読む
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📖【小説】 『クルイロ~翼~』 ①  (2007年刊行の絶版本をnote限定公開!!)

📖【小説】 『クルイロ~翼~』 ① (2007年刊行の絶版本をnote限定公開!!)

📚小説家 悠冴紀のプロフィール代わりの記事はこちら▼

◆序章 鳥
「俺はいつか、自分にバラバラにされて時間を落とす」

 それがアレクセイにとって、サッカー界の伝説的ファンタジスタ、そして無二の親友でもある半身、ボリス・リボーヴィッチ・スクラートフから聞いた最も印象的な言葉の一つだった。ほかの人たちの目には見えない、次元の異なる遠い世界を垣間見るかのような虚ろな眼差し。自分の身に何かが起こるず

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📖【小説】『クルイロ~翼~』 ②  (2007年刊行の絶版本をnote限定公開!!)

📖【小説】『クルイロ~翼~』 ② (2007年刊行の絶版本をnote限定公開!!)

📚前話①はこちら▼

◆「第一章:醜いアヒルの子」後半 P.22~

 はじめは何かついていけないものを感じていたアレクセイだったが、同じ学校に通い出し、一緒に過ごす機会が増えるにつれて、いつの間にか違和感が消えて、すっかりボリスのいたずら仲間になっていた。学校での彼は、ほかの子供たちとはかけ離れた独特の個性のために、良くも悪くも人目を引き、誰もしなかったようなことをして話題を呼ぶ先駆者でもあれ

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📖【小説】『クルイロ~翼~』③  (2007年刊行の絶版本をnote限定公開!!)

📖【小説】『クルイロ~翼~』③ (2007年刊行の絶版本をnote限定公開!!)

📚①はこちら▼

📚②はこちら▼

----③▽----
◆「第二章:二人の空」後半 P.37~

 ボリスはサッカーだけでなく、どのスポーツでもその運動能力の高さを証明できる人物だった。日々のちょっとした遊びの中でも、その才能の一端は垣間見ることができた。
 アレクセイはよくスクラートフ家の別荘についていき、緑豊かな森の中でボリスと一緒にキノコ狩りをしたり、小動物を追いかけて遊んだりした。別

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📖【小説】 『クルイロ~翼~』 ④ (2007年刊行の絶版本をnote限定公開!!)

📖【小説】 『クルイロ~翼~』 ④ (2007年刊行の絶版本をnote限定公開!!)

※①から順番に読む▼

📖① 📖② 📖③

-----④▽-----◆第二章「二人の空」中盤 P.45~

 ボリスの創造力の出しどころであり、かつ右に出る者のいない事柄として、サッカーのほかにもう一つ、芸術という分野があった。
 一度、芸術の授業で『将来の我が家』をテーマに作品を制作するという課題が出された。日頃から造形物を作ったり、仕掛けの凝ったビックリ箱を作ったりして遊んでいたボリ

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📖【小説】『クルイロ~翼~』 ⑤ (2007年刊行の絶版本をnote限定公開!!)

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◆第二章「二人の空」後半(P. 60~)

 まだ色々な面で目覚めきっていなかったこの頃のボリスは、どちらかと言うと良くない意味で人目を引き、悪評を広めていた。家庭における過剰な抑圧の反動か、彼は家庭の外ではせいぜい奔放に振る舞い、いたずら事に耽り、喧嘩を売られれば喜んで買った。自分からむやみに攻撃したりはしないが、腕っ

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📖【小説】『クルイロ~翼~』 ⑥ (2007年刊行の絶版本をnote限定公開!!)

📖【小説】『クルイロ~翼~』 ⑥ (2007年刊行の絶版本をnote限定公開!!)

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◆第三章「双頭の鷲」 前半(P. 73~)

 何事においても激動型の変化を遂げる傾向のあるボリスは、気が付くといつの間にか別人のようになっていた。
 まず、父親レフ氏に対する態度が一変した。これまでは子供なりのプライドや意地から、ときに父親や長男アナトリーと激しく衝突してきたボリスだったが、感情任せに反抗心を剥き出しにするのは要領が悪くて非生産的だと、ある

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📖【小説】『クルイロ~翼~』 ⑦ (2007年刊行の絶版本をnote限定公開!!)

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◆第三章「双頭の鷲」 前半(P. 83~)

 本人がユース入りの決意を固めたからといって、実現するのは容易ではなく、かなり慎重な工作活動が必要だった。
 まずは、ユースに通いたいという意志やスカウトの話がきている事実を、父親に知られないよう画策しなくてはならない。ただそうすると、当然金銭面の問題が出てくる。前回スカウトを受けたときにも突き当たった問題だが、い

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📖【小説】『クルイロ~翼~』 ⑧ (2007年刊行の絶版本をnote限定公開!!)

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◆ 第三章「双頭の鷲」 前半(P. 92~)

 家族の目を欺きながらユースに通い詰めてきたボリスが、ついにプロの道に踏み出すときがきた。初等中等普通学校の卒業シーズンが迫ってきた頃、クラブ側が彼に契約の話を持ち出してきたのだ。今の彼には迷う余地などなく、はじめから決意は固まっていた。ただ、その前に一つ、片付けておかねばならない問題があった。父親のことである。

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