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ツルツル・ピカピカの再開発にはない「リノベの価値」とは何か? 都市づくり5.0のヒント

こんにちは、noteメンバーシップ:ツギ・マチ・ラボ(次世代の都市・街づくりラボ)を運営する松岡です。今回はツルツル・ピカピカになりがちな、再開発の新築ビルにはない「リノベーション(以下リノベ)の価値」について考えたいと思います。よろしくお願いします。


内容:Ⅰリノベの可能性 /Ⅱリノベの魅力 /Ⅲ リノベの効用と展開


Ⅰリノベの可能性

⑴ リノベ動向

リノベが人気です。知人の馬場正尊氏が提唱した「〇〇 R不動産」は東京から始まって全国10都市に広がっています。さらに集合住宅に特化した「団地 R不動産」も新設され、公共施設を対象にした「公共R不動産」も全国の自治体に認知されるようになりました。

リノベを実施するには、元の建物の耐震診断に始まり、銀行ローンの難しさも指摘されてきました。さらに用途を変更する場合の各種建築申請の煩雑さなど、新築よりもはるかに面倒なプロセスが必要になるのですが、新築にはない魅力があるようです。


⑵ 深刻化する空き家問題

一方で空き家問題は深刻化しています。現状全国の住宅約6200万戸の内13.6%(約850万戸)が空き家(2018年総務省住宅・都市統計調査)と推定されています。

1970年以降年々増加し、人口減少に伴いその伸びは加速するものと考えられ、国交省も関連法規を整備し、様々な活用が模索されています。


⑶ 通勤利便性からの卒業

さらにコロナ禍を踏まえたリモートワークの定着は、通勤利便性一辺倒の住宅選びからの解放を促すことになると考えます。

通勤に便利だからという理由だけで、都市近郊で狭い住宅を選ぶのではなく、若い層を中心に中古住宅をリノベすることで自分のライフスタイルを表現して暮らしたいというニーズが高まるものと考えます。

これからはもう駅から徒歩何分か?とか、築年数がどうか?だけで選ぶのではなく、その建物の空気感や暮らしのストーリーを大切にするようになるのではないでしょうか。

R不動産には「公園のようなシェアオフィス」「神田川沿いで小商い」など暮らしを妄想させるタイトルが並びます。

物件というハコではなく、人々の暮らしの「舞台」という考え方をもとに、物件情報を提供するマッチングサイトではなく、コンテンツを提供するメディアになっているところが好評を博している理由だと考えます。

この視点をもとにリノベが単に自分好みのインテリアの改装や、新築できないコスト削減策としてだけではない、価値のある開発ジャンルだということを提示すべきだと考えます。


Ⅱリノベの魅力

⑴ より人間らしい空間の質

リノベの魅力は経済合理性だけではない空間の質にあります。

① 柔軟性と愛着:リノベにはピカピカの新築物件が備えるキズをつけてはいけない「緊張感」ではなく、修理しながらカスタマイズし育てていける気楽さがあります。

② ゆとりと居心地:均一で合理化された新築の「窮屈さ」ではなく、異質をはらむことによって醸し出される懐の広さがあります。

③ 温かみと深み:スクラップ&ビルドに伴う「断絶性」ではなく、街の記憶をリスペクトしながら継承することによる地に足ついた歴史性があります。


元の建物を活用してアップデートするというリノベ・プロセスそのものが、地域(空間)的なつながりや歴史(時間)的な文脈を、継承していく思考にならざるを得なくなります。

その結果、創造性を刺激する沢山のフックを織り込んでいくことになるのでは無いでしょうか。

リノベ空間は元来がノイジーな人間そのものの存在に、より近い性質を持っているのではないかと考えます。


⑵ ストーリーが作るヴィンテージ価値

ナビスコの工場跡を活用したニューヨークのチェルシーマーケットや、造船場跡を活用したバンクーバーのグランビルアイランドのように、特別感のある立地或いは歴史を抱えた場所や個性的な建物の方が、「ヴィンテージ価値」が高まる潜在性を備えていることになると考えます。

前述の馬場氏が、東京日の出のシェアオフィス TABLOIDを計画する際に「日の出という湾岸立地と夕刊の印刷工場跡という用途があったから、他にはないコンセプトを生み出せた」とコメントしていたことを思い出します。

リノベ計画はギャップが大きいほど、ストーリーを上手く紡ぐことによってアップデート価値を高めることが可能だということです。


Ⅲ リノベの効用と展開

⑴ 自分たちらしさを表現するネタとフック

リノベによるギャップに魅せられて、若者やクリエイターたちがこれを支持するのです。

アップデートするストーリーそのものが、発展途上の組織やスタートアップ企業の拠り所にもピッタリなのです。

そしてネタやフックの多さがさまざまな交流・イノベーションの舞台として機能するのです。これらはいずれもスクラップ&ビルドの新築物件では望めない価値です。


⑵ ギャップ&アップデートがコンテンツになる

工場地帯をパイオニアたちのアトリエにすることで、新たなカルチャーを生み出してきたニューヨークの SOHOや、発電所の建物を国立美術館「Tate Modern」に、リノベーションすることで、周辺地域までも活性化させたロンドン South Bankなどに共通するのが、「ギャップ&アップデート」の価値で、クリエイターの発想を刺激し、新たなものを創造していく起点としてのマグネットになります。


⑶ 場所のコンテンツ価値

オンライン1stでビジネスや商業が進行していくBeyondコロナ時代の土地活用は、交通利便性&規模性を競うのではなく、その土地の持つ歴史や文脈を踏まえたギャップ&アップデート価値が重視されていくと考えます。

そして今後ますます活用が模索される公共施設など行政が塩漬けにしている物件が蔵出しされるようになると、アップデートされるコンテンツも多彩になり、素晴らしい可能性を秘めた開発ジャンルになると考えます。


【都市づくりヒント リノベによるギャップ&アップデート価値の見える化】
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