見出し画像

夢人生プログラム【ショートストーリー】

 25歳。俳優志望。それが俺のプロフィールだ。明日のスターを夢見て、今日も俺は演技のレッスンに通う。
「だめだめ! もっと感情を込めて!」
 先生の厳しい指導が始まる。
「込めてるつもりなんですけど、、」
「つもりじゃだめだろ!」
「すいません、、」
 この日も、厳しく怒られてレッスンは終わった。レッスンを終えると、スマホでオーディション情報をチェックする。
「このオーディション行ってみるか」
 それは、有名監督の新作映画の主役のオーディションだった。
「佐伯鉄平です。よろしくお願いします!」
 オーディションが始まり、俺は元気よく挨拶をした。
「はい。では、親友を目の前で殺された主人公の悲しみと怒りの演技やってみて」
「分かりました!」
 俺は、全力で演技をした。しかし、監督の反応はイマイチだった。
「もういいよ。次!」
 こうして、オーディションには落選した。もうこれで、100件ほどオーディションに落ちている。俺は、自分の才能のなさを痛感していた。そして、そろそろ諦めて就職しようかと考えていた。そんな矢先、ある電話がかかってきた。
「もしもし?」
「佐伯さん。こんにちは」
「はい。こんにちは」
「わたくし、夢人生プログラムというものをやっております新田と申します」
「はあ」
「わたくしは、夢を追っている若者に向けて、このプログラムを行っております」
「そうなんですか」
「はい。今度、説明会を行いますので是非お越しください」
「なんか怪しいですけど」
「いえ、説明を聞いていただければ分かってもらえますよ」
「分かりました。説明会はいつなんですか?」
「日にちはですね、、」
 こうして、俺はこのプログラムの説明会に行くことになった。
「お待ちしておりました」
 そこは、小さな会議室で俺以外にも数人の若者がいた。
「では、そろそろ説明を始めます」
 そう言って、説明会は始まった。
「今回ご紹介するのは、夢人生プログラムというものです。このプログラムは、現実とは別の、夢の世界で生きられるというプログラムです。どういうことかと言いますと、今から特殊な機械で、眠り続けていただきます。すると、眠っている間、夢を見ることができます。その夢の中では、どんな夢も叶えることができます。期間は最大50年。つまり、現実で叶わない夢が、夢の世界で叶うというわけです」
 俺は、少しこのプログラムが気になっていた。
「金額はどれくらい必要なんだ?」
「そうですね。50万円でどうでしょう」
 それくらいなら払えなくもない。俺は、このプログラムに参加することを決めた。
「では、この書類にサインを」
 俺以外の数人もみんな、サインをしていた。そして、ある病院へ連れて行かれた。
「この病院で今から50年間眠っていただきます」
 俺は、ワクワクしていた。早く夢の世界へ行きたい。そこではなんでも叶うのだから。俺は、ベッドに横になり、専用の機械をつけた。
「では、50年後に会いましょう」
 こうして、俺は眠りについた。しばらくすると、目の前に夢の世界が広がった。そこでは、俺は映画の撮影中だった。
「次は、目の前で親友を殺されるシーンだ!」
 俺が、現実で苦手だった演技だ。
「では、よーいアクション」
 演技が始まった。苦手だったはずの演技が、いとも簡単に行うことができた。
「カット!」
 監督が駆け寄ってくる。
「いい演技だったよ」
 俺は、喜びで泣き出しそうだった。それから、俺はこの世界で有名な俳優として、生活を始めるのだった。
 この世界では、俳優の仕事以外にも、恋愛も楽しんだ。俺の前に、絶世の美女が現れたのだった。俺は、すぐにアプローチをした。
「お姉さん。俺と付き合ってくれない?」
「ええ。もちろんいいわよ」
 そのお姉さんは、二つ返事で了承してくれた。それから、二人でデートを重ねた。そして、彼女の誕生日、俺はプロポーズをした。答えは、もちろんオーケー。こうして、夢の世界で、妻ができた。そして、その後、妻との間に子供ができた。仕事も家庭も順風満帆。俺は、この世界で幸せになった。
 しかし、俺はいつ目が覚めるのか不安だった。そして、家族で外食をしていた矢先、アラームが聞こえてきた。
「もしかして、、」
 視界が歪み、気がつくと病院のベッドの上にいた。ベッドの前には、鏡がありその鏡には、しわしわになった75歳の自分がいた。そこへ、同じく歳をとった新田さんがやってきた。
「どうでしたか? 夢の世界は」
 俺は、夢の世界での出来事を思い出そうとしたが、記憶がおぼろげで思い出せなかった。
「なんか、思い出せなくて」
「そうですか。夢というのは、そんなものです。見ている時は、楽しいのに、起きるとまるで覚えていない。あなたの50年は、文字通り夢だったのですよ」
 俺は、もの凄い虚無感に襲われた。そして、しわしわになった自分の姿を見つめた。
「俺の50年はどこへ行ったんだよ、、」
「残念ですねえ。こんなプログラムに頼らなければ、あなたの夢は現実で叶ったかもしれない。でも、もう遅い。あなたの50年は、空っぽの夢のまま思い出すこともできずに、死んでいくのです。そう。あなたの50年は、何もなかったのと同じなのですよ」
「そんな、、」
 俺は、老いた自分を見つめながら、恐怖に震えていた。
「どうです?もう一度、夢を見ますか?」
 俺は、震えながら叫んだ。
「いやだ、、やめてくれ!、、」
 そして、明かりは消えアナウンスが流れた。
「これにて、舞台夢人生の上演を終了します。」
 俺は、舞台上から客席を見下ろした。そして観客達の前で挨拶をする。
「みなさん。私は、俳優になるという夢を叶えました。でも、この舞台の主人公のように夢を諦めてしまう人もいると思います。だけど、希望を捨てないでください。夢はきっと皆さんを待ってます」
 惜しみない拍手が、客席から鳴り響くのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?