左目の一族【掌編小説】

 私の一族は、代々右目が見えない。なので私もお母さんもおばあちゃんも、右目が見えない。だから、私も子供を産めば当然その子は、右目が見えないのだ。だけど、私には今彼氏がいる。そして、後に結婚も考えている。私は彼氏に一族のことを伝えていない。なので、彼氏は私が右目が見えないことも知らない。そんな状況の中、私のお腹に子供ができた。その事を彼氏に伝えた。
「ほんとに?」
「うん」
「やったじゃん!」
「そうなんだけど、、」
 不安そうな私を見て彼氏が言う。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
 そして、私はとうとう右目が見えない事を伝えないまま出産を迎えた。
「大丈夫かな、、」
「大丈夫だって」
 彼氏は、励ましてくれた。そして、分娩室に入る。
 助産師さんが声をかけてくれる。
「落ち着いて! 踏ん張ってください!」
 そして、子供は産まれた。
「おめでとうございます! 元気な男の子です!」
 そこで、私は自分の息子を抱えて、あの事をとうとう打ち明けた。
「ねえ、聞いてくれる?」
「なんだい?」
「言わなければいけないことがあるの」
「分かった。聞くよ」
「あのね、私の一族は、代々右目が見えないの。だから、私も右目が見えない。それで、私の子供であるこの子も当然右目が見えない。その事をずっと言えなくて、隠してたの。ごめんなさい」
「え、、、」
 彼氏は、言葉を失っていた。そして、言った。
「実は、俺の一族も代々左目が見えないんだ、、」
「え、、じゃあこの子は、、」
 胸に抱き抱えた赤ん坊の視線はどこか、虚な目をしていた。

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