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流星の真実【ショートショート】

「今夜はジャコビニ流星群が夜空を彩るでしょう」
 テレビでキャスターが言った。かなこは母親に向かって言った。
「ねえ、今日キャンプしようよ」
「キャンプ? どうして?」
「ジャコビニ流星群が見えるからだよ」
「そっか。近くのキャンプ場を探してみましょうか」
 こうして、この親子は夜にキャンプに行くことになった。調べると、家から徒歩一時間のところにキャンプ場があることがわかった。そのため、二人は上着を羽織り、山へと歩いて向かった。山へと向かう道中も、夜空を見上げると星々が輝いていた。今からこの夜空を流星が駆けていくのだと考えると、かなこはロマンチックな気持ちになった。
「着いた」
 キャンプ場には、ジャコビニ流星群を見ようと、沢山の人が詰めかけていた。皆、考えることは同じなのだとかなこは思い知らされた。時刻は十八時。流星群は、十九時頃に現れるらしい。それまで、二人はカップ麺を食べながら、願い事を考えた。
「お母さん何願うの?」
「どうしようかしら」
「私は、お金持ちになれますようにって願うよ」
「ごめんね、貧乏で」
「別に大丈夫だよ」
 そんな会話をしていると、空を流星が駆けていった。
「来た!」
 かなこはそう言うと、空に向かって願い事を始めた。それを見た、母親も空に願い事を始めた。しばらく美しい流星を眺めた後、母親はかなこに言った。
「お母さんトイレに行ってくるから待っててね」
 そして、母親はトイレに用を足しに行った。十分後、母親は元の場所へ帰ってきた。空にはまだ流星が輝いている。
「お待たせ」
 しかし、返事がなかった。母親は、辺りを見渡した。だが、かなこの姿が見当たらないのだ。
「もしかして、、」

 その頃、かなこは怪しい男に誘われて人のいない所へ来ていた。
「流星群がもっと綺麗に見える場所があるよ」
 そう誘われて、かなこはついて行った。かなこはまだ小学生。怪しい男は、子供を狙っていたのだ。かなこがついていくと、男は車の前へ連れて行った。そして、勢いよくかなこに袋を被せた。そして、車の中へかなこを詰め込んだ。そして、そのまま車は遠く離れた場所へと走り去って行った。
 車が止まると、かなこは袋に入れられたまま一軒家の地下室へ入れられた。そして、男が袋からかなこを出した。
「今日からお前には、ここで生活してもらう」
 男はそう言うと、部屋を出て鍵をかけた。かなこは、ドアを開けようとしたが、外からしか開閉出来ないようになっていた。かなこは絶望した。そして、恐怖に震えた。
「助けて、、」
 しかし、その声は誰にも届かなかった。
 そして、その日から男は定期的に地下室へやってきた。食事は豪華なものが出された。寿司や肉、ピザやラーメン、どれも美味しいものだった。しかし、それ以外の時間はかなこに乱暴をした。体を触ったり、暴力を振るったりした。しかし、かなこは逃げられなかった。そして、誰にも見つからないまま十三年の月日が経った。

 相変わらず、乱暴されたりする生活が続いていた。それでも、かなこはもう大人になっていた。外の世界を何も知らないまま大人になった。同級生と恋をすることも、部活に青春を捧げることも出来ないまま大人になった。早く外に出たい。そして、母親の元へ帰りたい。そう願っていた。すると、男が部屋へとやってきた。
「おはよう。今日は、ジャコビニ流星群の日だよ」
 男は言った。
「俺はお前にチャンスをやる。今日の十九時から、流星群はやってくる。ここに時計を置いておく。せいぜい、流星にここから出してと願ってみるんだな」
 そう言って男は、時計を置いていった。
 かなこは、十九時を待った。早くここから出たい。そんな思いを抱えながらやがて、十九時がやってきた。かなこは、決死の思いで見えない空に向かって、願い事をした。
「お母さんの元へ帰してください! お願いします!」
 すると、徐々に周りの景色が変わり始めた。天井は夜空になり、地面は草むらになった。気がつけば、あの山に居たのだ。
「ここは」
 周りには沢山の人がいた。皆空を見上げて流星に願いをかけている。そして、かなこは目の前にいる一人の女性に目を向けた。
「お母さん、、?」
 その女性は、かなこに気付き言った。
「あなたは、、」
 かなこは駆け寄った。そして、言った。
「私だよ! かなこだよ!」
 母親は、驚いた顔をした。
「かなこかい!?」
 かなこは抱きついた。
「ずっと会いたかったよ、、」
 すると、母親は言った。
「ごめんね。離れ離れにしてしまって、、」
「ううん。お母さんのせいじゃないよ」
「どうやって戻ってきたんだい?」
「流星群に願ったの。お母さんの元へ帰してって」
 すると、母親が申し訳なさそうに言った。
「そうかい、、実は、お母さんも願ったんだ。十三年前に、、」
「なんて願ったの?」
「かなこが、居なくなりますようにって」
「え?」
「ごめんね。私あの時、シングルマザーでお金もなかった。かなこを育てるのに疲れて、それでそんな事をつい、、」
 しかし、かなこはそれでも母親に怒ることはなかった。
「いいのよ、、私怒ってないから、、」
「そうかい。ありがとう」
「じゃあお母さん、一緒に帰ろ」
 しかし、母親は事情を語り始めた。
「かなこ。お母さん今は、再婚して子供もいる。今は立派な家庭を持っているんだよ」
「そうなの?」
「うん。だから今、もう一度願ったの」
「なんて願ったの?」
 そして、母親は言った。
「かなこがもう一度居なくなりますように」

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