【読書記録】2022年8月

ごきげんよう。ゆきです。

久しぶりに短編集縛りしました!育児の空き時間にサクッと完結させたかったというのが理由ですが、やっぱり長編にはない魅力がありますね。ひと月に物凄い量の本を読了した気がしていて、達成感に近いものを感じています。

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バイト先の女子高生との淡い恋、転校してきた美少女へのときめき、年上劇団員との溺れるような日々、集団自殺の一歩手前で抱いた恋心、そして人生の夕暮れ時の穏やかな想い…。サプライズ・ミステリーの名手が綴る恋愛小説集は、一筋縄でいくはずがない!?企みに気づいた瞬間、読み返さずにはいられなくなる一冊。

歌野晶午といえば言わずと知れた名作『葉桜の季節に君を想うということ』が思い浮かぶ。とはいえ実は途中までしか読んだことがない。様々な書籍のレビューを漁っている際、ネタバレに出くわしてしまい読む気を削がれてしまったのだ。忘れた頃に読もう、とは思っているものの、そういう記憶こそなかなか頭を離れてくれず、結果現在に至る。ミステリーのネタバレなんて絶対にするもんじゃない。

というわけで歌野晶午の凄さを未体験だった私は、本書でそれを身をもって知ることになった。13話収録なのだが、1つ1つがミステリ要素ありで面白い。1話から純粋に楽しみ、12話に到達した時にこの本のカラクリを見せつけられ「うおお?!」と目を見開き、13話を終えたところで頭を整理する時間を設けた。

秀逸なのが巻末の解説である。何が書かれているかを明記してしまうとネタバレになるのでふんわりとしか語れないが、とにかく本編読了後に気づいた仕掛けのその上を教えてくれるのだ。本書が2度読み必至ではなく、3度読み必至だと言われる所以が語られている。ここに記された作者の策士っぷりに思わず溜め息が漏れた。凄い、凄いわ歌野晶午。

600ページ超ということで本屋で見た時にその厚さに驚いたものだが、読み始めればあっという間だった。むしろ13話も収録されている分、細切れでもサクサク読める。私のお気に入りは『黄泉路より』と『ドレスと留袖』。

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人里離れた山中の別荘で、私は最愛の妻・由伊とふたりで過ごしていた。妖精のように可憐で、愛らしかった由伊。しかし今はもう、私が話しかけても由伊は返事をしない。物云わぬ妻の身体を前にして、私はひたすらに待ちつづけている。由伊の祝福された身体に起こる奇跡―由伊の「再生」を(「再生」)。繊細で美しい七つの物語。怪奇と幻想をこよなく愛する著者が一編一編、魂をこめて綴った珠玉の作品集。

夏だしちょっとゾクゾクするようなホラーを、と思い大好きな作家の短編集をセレクト。幽霊が脅かしにかかってくるとか、1番怖いのは人間だったとかそういう話ではなく、奇談の寄せ集めに近い。いい塩梅で背筋がゾクッとなる、今の時期にピッタリの1冊。

読みながら終始「怖い」と「気味悪い」が行ったり来たりしていた。収録の7編はどれも面白かったが、『特別料理』だけは読み進めるのがどうにもしんどかった。ゲテモノ食いに抵抗がある人は注意。

1番を決めるのは難しいが、やはりタイトルにもなっている『眼球奇譚』だろうか。最終編に置かれているのも納得の後味。先程から変な視線を感じる気がして落ち着かない。『人形』も終わり方が好みだった。短編集だからこそ、1話1話の終わり方が大事だなと本書を読みながら感じていた。

著者のあとがきによると、本書は初めから順番通りに読むのがベストだとのこと。私もそう思う。というか短編集を「読みたいものから読む」という発想を持ち合わせていなかったので、そういう注意書きが必要なのかと少し驚いたりした。特に全編通してのカラクリがあるわけではないのだが、順番に読むと最終章の「おお」というシンプルな驚きを味わえるはずである。

本書の読了後、もし怖くて仕方なくなってしまった方がいたら是非綾辻先生のTwitterを覗いてみてほしい。モルカーを愛し、著書とモルカーを並べて写真を撮り、モルカー本の帯にコメントまで寄せちゃうチャーミングな姿に癒されること間違いなしである。……そんな可愛いオジサマがこの本を書いたのかと想うと逆に背筋が凍る気もする。

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小説の、最後の最後でおどろきたい方、ぜひどうぞ。 
「どんでん返し」をテーマに描いたミステリー5編。 

ベスト本格ミステリ2018に選出された「使い勝手のいい女」のほか、 
「わずかばかりの犠牲」「骨になったら」「監督不行き届き」「復讐は神に任せよ」と、どの短編もラストで景色が一変します。

なんていかにもなタイトルと捻りのないあらすじ!と思ったが、超王道を攻めてみるのもいいかと考え選書。読了後に改めて見ると、うーんなんとも勿体ない。どんでん返し系ミステリの短編集としては傑作揃いなのに、このタイトルとあらすじで読者の読む気が削がれている気がする。

どんでん返し、と初めから言われているので叙述トリックを疑ってかかって読んだが、1話1話が最後の最後まで磨かれており、結局騙されてしまったものもあった。途中で気付いたとしても、スピード感や伏線回収が心地よく、全話楽しめる。いずれの話も、読了後に見ると皮肉が込められていると分かるタイトルがまた良い。

『骨になったら』と『監督不行き届き』が個人的ヒット。どちらもミステリとして最高だった。せっかくなので両者あらすじと感想を記しておく。

『骨になったら』
亡くなった妻の葬儀で、火葬を待つ夫の物語。妻は自殺ということになっているが、実は夫が殺害した。真実が明るみになる前に骨になってほしい、と火葬を心待ちにしている間、夫はこれまでの出来事を振り返っていく。
これは騙された。思わず「なるほどそういうことね」と感嘆するクオリティ。短編だからこそ書けた仕掛けのようにも思う。最後まで息もつかせぬ展開で、真実を全て明るみにしきっていない点も個人的には好き。

『監督不行き届き』
夫の不倫相手が突然現れ「旦那さんと別れろ」と言ってきた。妻は不倫に全く気付いておらず、何がなんだか分からない。全員揃って話し合いの場を設けるも、不倫相手は引かないし夫も煮え切らない。そのうち夫が失踪してしまい、捜索している中で真実が見えてくる、という物語。
犯人当てが楽しめるミステリ。怪しいなーと思っていた人物が全くの無関係で終わって拍子抜け。これは長編にしても楽しめる気がする。こちらも終わり方が◎。

内容と関係ないところで1つ言うとすれば、全編に胸糞悪い登場人物が必ずいて、1冊読了するのにめちゃくちゃイライラしてしまった。胸糞悪いキャラを書かせたらこの作家の右に出る者はいないんじゃないだろうか。しかも現実にギリいそうなレベルでムカつく。長編でこういったキャラに付き合うのはしんどいと思うので、その手腕は短編だけに留めておいていただきたい。

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世界が変わるほどの恋。すべてが反転する秘密。大胆な仕掛けに満ちた、選考委員激賞のデビュー作!抜けてしまった歯が思い起こさせるのは、一生に一度の恋。もう共には生きられない、あの人のこと―。第15回「女による女のためのR‐18文学賞」大賞受賞作をはじめ、どんな場所でも必死に泳いでいこうとする5匹の魚たちをとびきり鮮やかな仕掛けで描いた連作集。

これがデビュー作……だと……?素晴らしい展開と美しい言葉選び、切ないけれど優しい、失望の果ての輝かしい未来を想像させてくれる温かな物語に心が洗われた。良すぎた……今年の1冊にもう決定しても良いと思うくらい、本当に素敵な1冊だった。

巻末の解説でも触れられているが、収録されている5篇全ての書き出しが最高である。なんでも筆者は1文目を物凄く大切にしているのだとか。たしかに、読み始めからぐんぐん物語に引き込まれ過ぎて、やめ時を見失ってばかりだった。たかが1文、されど1文である。連作短編だからこそ単調になってしまいがちな流れを、冒頭の1文で勢い付かせるのだからその手腕は半端じゃない。

お気に入りの話を選ぼうと思ったのだが、選べなかった。どれも本当に本当に好き。ただ明るいだけではなくて、毎話陰を伴ってはいるが、必ず光はあって前向きに生きる力をもらえる。連作短編なので、主人公は全て違えど重複して出てくる人物がおり、その関係性も憎い。こういう構成に弱い。

Kindleで購入したけれど、これは紙で手元に置いておきたい。そしてこの先、自分の生き方に迷った時にそっと指針となってほしい。この本に出逢えたことが幸せだ。

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恋愛小説(?)からホラー、ミステリと、短編縛りで色んなジャンルを踏めて楽しかったです。でもやっぱり、『夜空に泳ぐ〜』がいちばんよかった。膝の上でスヤスヤ眠る息子の温もりを感じながら読んだので、響き方も深くなったのかもしれないけれど。

短編をずっと読んでいると、「長編ってどうやって読むんだっけ?」って思うのは私だけでしょうか。短い起承転結にずぶずぶに浸ってしまったので、来月は長編も織り交ぜつつ選書していきます。ついに!念願の!あの縛りをやります!!!個人的に非常に高まっております!!!お付き合いいただければ幸いです。

今回もお付き合いいただきありがとうございました。

またお会いしましょう。ゆきでした。

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