アニメ「氷菓」……「私、気になります!」
「京アニ事件」の初公判が開かれ、改めて憤りが募る。
いかなる判決が出たとしても、命を散らした人達は戻ってこないのだ。
今更、「京アニ」の諸作品を評価するのもおこがましいが、僕はふと、一見地味ながらも「名作」と位置づけたいアニメを思い出した。
ぜひとも、犯人にもこの作品をじっくりと味わい……自らの愚行を悔いて欲しいものである。
「氷菓」というアニメをご存知だろうか?
ジャンル的には「学園青春ミステリー」とでも言うのだろうか?
ただし「ミステリー」と銘打っておきながらも、お決りの「殺人」はおろか、警察沙汰になるような事件とも無縁なのである。
ネタバレになるので詳らかには説明しないが……要は、日常の中の、気になる物事に対する好奇心と、これを解き明かしてゆくという行程がメインなのだ。
ヒロインの口癖である、「私、気になります!」という言葉が全てを語っているだろう。
すなわち、このアニメは……最初から終わりまで「日常」が舞台なのだ。
アニメファンのみならず……この所、一つの風潮として「非日常」に感心が高まっている中……この作品は異色といえるかも知れない。
そう。日常の退屈から逃れたく……多くの人は「非日常」に憧れ……特にアニメの世界では「異世界」「魔法」等は定番として一つのジャンルを形作ってはいるが……いかに巧妙な仕掛けや理屈を以てしても……当の「非日常」は所詮「幻」に過ぎず、我々は作品を見終わったあとには……再び、退屈な「日常」……すなわち「学園」や「会社」に連れ戻されてしまうだろう。
しかし、「氷菓」という作品の凄さは何かと言うと……徹底した「日常」を舞台にしながらも、我々を「地に足のついた非日常」に誘ってくれるのだ。
そこは決して荒唐無稽な「異世界」ではないが、「血の通った非日常」と言い換えてもいいかも知れない。
要するに、本当に面白い「非日常」とは、「日常」であるという逆説なのだ。
だからこそ、我々は「氷菓」を見終わっても、「氷菓」という眼差しを持ち続けるかぎり……引き戻された「日常」を退屈な世界としではなく、好奇心の宝の山として、魅力的な「非日常」を、決して幻ではない「現実」として体験できるのだ。
どうも、我々は、大人になるにつれ、柔軟な子供の好奇心というものを失ってしまうらしい。
子供の眼差しでは「気になる」事態に対しても、大人というものは、ステレオタイプの解答を以て等閑にし、見慣れた、取るに足りないけしきとして目を逸らしてしまいがちなのだ。
日常である「学園」や「会社」や「往来」「車中」「公園」「カフェ」「美術館」等々……でも、子供の眼差しで見詰めるならば、「気になる」ことは山ほどあるものだ。
僕にしても、子供の頃は……学校内の「校長室」とか、「開かずの間」的教室に好奇心をそそられると同時……クラス担任であった数学教師が、いつも酒臭い息で、休み時間になるとスキットルのウイスキーを呷っていたこと……なぜ、彼だけが許されていたのか……大いに「気になった」ものであった。
いずれにしても、「氷菓」という作品は、我々に、既に失われた「好奇心」の眼差しをそっと提示してくれるのだ。
ちなみに、この作品の魅力としては、中心となる「古典部」の仲間である四人のキャラだろう。見事に「キャラ立ち」していて、僕などは普段は好みでない、すぐに声を荒立てる女子の一番のファンになったものであった。
少なくとも、一日一度くらいは、
「私、気になります!」
そんな、取って置きの呪文を唱えてみたいものである。
ついでに、主役たる折木奉太郎の口癖は、まさに僕の信条でもあるのだ。
「やらなくてもいいことならやらない。やらなければいけないことなら手短に」
貧乏人です。創作費用に充てたいので……よろしくお願いいたします。