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ビバ! 総菜パン

 

 世に「総菜パン」というものがある。和食とは言えないが、立派な……いっそ世界に誇る日本食だろう。カレーパンを筆頭に、コロッケパンや焼きそばパンの類いである。


 昼食によし、お八つにも……夜食としても大活躍である。
 かく言う僕も大好きではあるが、思いを巡らすに、子供の頃にこの総菜パンを食べた記憶がとんとない。別に、総菜パンが存在しなかったわけはない。元を辿れば、昭和の二十年代にまで遡るのだ。

 たぶん、子供の僕にとってパンといえば、もっぱら「菓子パン」の類いで、総菜系のパンには目もくれなかったのだろう。
 今思い出しても、一番古い記憶としては、幼稚園時代に遠藤君という、ウサギみたいに小鼻をいつもヒクヒク動かしていた子が、いつもメロンパンを、いかにも美味しそうに食べていて……つい感化されたものである。
 次に覚えているのが、小学生の頃の定番、チョココロナである。確か不文律のような食べ方のルールがあって、尻尾の部分のチョコが入っていない所を千切って、天辺のチョコを付けてから食べるというものである。僕としては、ウザッタく、頭から丸かじりではあったが。
 もちろん、ジャムパンや餡パンの類いも食べたはずだが、一番の憧れはクリームパンであった。なぜ憧れたのかと言えば、全く根拠は不明ながら、お袋に言わせると……お腹をこわすとのこと。友達にちょこっと分けてもらったのがやけに美味くて食べたかったのだが……実のところ、中学に上がるまで禁止されていたのだ。

 そして中学に上がると……餡ドーナツにハマったものである。通学途中にあるパン屋で買うのだが、ここの店番のバァサンというのがやたら吝く、こっちが催促しないと、パンに砂糖を絡めてくれないのだ。
 いずれにしても、ケースの中に時々蝿が飛んでいるようなパン屋ではあったが、この餡ドーナツだけは絶品であった。この餡ドーナツには、僕の果無く散った恋の思いでもあって、今でも時々口にする。

 そして高校に上がる。たぶん、本当の恋を知り染めたと同時に、僕は菓子パンを卒業して、総菜パンの世界に突入した観がある。
 なにせ、貧乏じみた男子高で食堂もなく、弁当持参か、出入りのパン屋に注文するのだが……ここで出合ったホットドッグ……というよりも、赤いウインナーの入ったソーセージパンが、記憶に残る総菜パンデビューだったのだ。

 今では、ほろ苦い思い出の餡ドーナツ以外菓子パンはほぼ口にせず、種類も多彩になってきた総菜パンを楽しんでいる。

 今宵も、酒のお共として、カレーパンとメンチカツのパンを食べる予定である。

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