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花びらの案内人

※お立ち寄り時間…5分

昨夜は、ひどい雨だった。
梅雨も明けたというのに、時々、世界中の悲しみをまとめてひっくり返したかのような雨が降る。それでいて、次の日はすっかり元気だ。神様のストレス発散というところか。

「あれ…?まただ。」 

いつからだろう。玄関の前にばらの花束が届けられるようになっていた。決まって、日曜日の早朝だった。
不思議と気味が悪いとは思わなかった。というのも、指を切らないようにトゲが丁寧に切られていたからだ。

昔、何かの映画で、好きな人に毎朝焼きたてのクロワッサンを届けるシーンがあったことを思い出した。
 
「まさかね…。」

とある朝、ピンクの花びらをつけた黒猫が玄関で眠っていた。ふと、隣を見ると同じ花びらの花束が置かれている。

「君が届けてくれたの?」

頭を撫でると、気持ちよさそうに体を擦り寄せてきた。人懐こい猫で、コロコロとのどを鳴らす。

ふと、道の上に、ばらの花びらがハラハラと落ちていることに気がついた。

「ねえ、道案内をお願いできるかしら?」

黒猫の君にそっと耳打ちすると、待ってましたと言うかのように、楽しげに歩き始めた。

「なんだか、おとぎばなしみたいね。怖いおばあさんじゃないと良いんだけど。」

ピンクの花びらを辿った先には、どんな人がいるのだろう。こんな風にワクワクするのは、久しぶりだ。早朝の空はまだ広くて薄い。会えたら、どんな話をしようか。

気がつくと、花びらは、ハートの形をしていた。

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