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【読書日記】コンヴィヴィアル・テクノロジー

Xデザイン学校アドバンスコースで、コンヴィヴィアル・テクノロジーを輪読しました。

私はコンヴィヴィアリティという単語はあまり馴染みがないのですが、この本では、「他者や自然と関係性のなかで自由を享受し、創造性を最大限発揮しながら生きること」(イヴァン・イリイチ)を意味していると伝えています。(つまり日本語の共生+α)

ですので、コンヴィヴィアルテクノジーとは、この本の副題のとおり「人間とテクノロジーがともに生きる社会へ」となります。
この本では、イヴァン・イリイチのコンヴィヴィアリティ論をテクノロジー論に拡張し、「これからのテクノロジーのあるべき姿」「テクノロジーはどのように存在しうるか」を考えていくものです。

二つの分水嶺で思考を行き来する

テクノロジーの進化自体が加速する現在、テクノロジーは善か悪かといった議論もありますが、この本では繰り返し、善悪ではない/白黒つけることではない、といった許容や寛容に言及しており、道具(やテクノロジー)と人との間も、多元的なバランスをとることが必要だと伝えています。

分岐視点での検討ではなく、第一の分水嶺(あらゆる道具は人間に力を与えてくれる)と、第二の分水嶺(人間から力を奪う)の間を、許容や寛容を効果的に使いその間で検討することでバランスをとっていくこと。

二つの分水嶺で思考を行き来する

たくさん面白い話があり、まとまり切らなそうなので、今回は、大切だなと感じたことを3つに絞って読書日記としたいと思います。

①デザインの役割

デザインの役割は、「使いやすさ」や「課題解決」だけではない。
人間には誰しも、理由なく心を奪われたり、自身の利益などを考えずに誰かのために行動したり、信頼関係やつながりを求めたりすることがある。
そういった意味で、人の心を動かすこともデザインの一側面。「モノやサービスが本来持つ価値を最大限に伝えること」と同様に、人間の心に作用する側面にも改めて目を向けることが大切。

デザインの対象と必要要素
人間の活動

②意思決定のための知識は、意思決定にはならない

超情報化社会において、情報はあふれかえっており、意思決定のための知識を得ることができるが、それ自体では意思決定にならない。行き過ぎた専門家は、最高性能を競うことにたどり着き、科学をブラックボックス化する。現代は、知識への盲信(または不信)が過剰。
自律的に考え、判断し、意思決定能力を磨くことが大事。

2つの自立性

③3つのアップデート

わかりあえない私たちが共生するための手がかりとして、「寛容」「責任」「信頼」のアップデートについて考えていくことが大切。

3つのアップデート

寛容のアップデート

お互いに異なる環世界を持つ他者と共にいきるために、
・絶対的な正しさはないことを知る
・異なる正しさを持つ他者に対して寛容である必要がある

・責任のアップデート

絶対的な正しさがない中、(自己)責任論を振りかざすことには議論が必要。
コミュニケーションとは、わかりあうためのもの、とだけ捉えるのではなく、「分かり合えなさを互いに受け止め、それでもなお共にあることを受け容れる」ための技法として捉え直す。
分かり合えなさをつなぐことによって、その結び目から新たな意味と価値が湧き出てくる。

・信頼のアップデート

不確実性の高い開かれた社会では、人を欺いたり出し抜こうとするよりも、常に信頼されるような行動をとることこそが理に適う。

輪読会での意見

輪読会では、「ちょうどいいテクノロジーとは何か」「競争社会を止めなければ、人を楽にさせてしまう(依存させてしまう)テクノロジーが止まらないのではないか」など意見もでました。
「そのために倫理観はどのように育てていくのか」、「リテラシーを高める工夫は何かあるか」などにも言及がありましたが、なかなか答えにまではたどり着きませんでした。

私は、本書を読む中で、「どのような社会も組織も考え方も行きつくところまでいけば、そのシステムそのものが死んでしまう」といった考え方に着目しました。

自分の価値観だけを盲信せずに、寛容的に人や情報と繋がるなかで、テクノロジーや社会との関係を築いていくことが大切なのかなと思います。

まとめ

コンヴィヴィアルテクノロジーとは、現在・未来に向けて、人間とテクノロジーに求められるものは、自立性やバランスのとれたちょうどよさ。
大変読みやすく、読むタイミングによって様々な気づきが得られる良書だと思いました。時間を空けて繰り返し読みたいと思います。

参考

イヴァン・イリイチさんに興味を持たれた方はこちらもどうぞ。

合わせて、読み解きの前に、本書に繰り返し出てくる単語に「分水嶺」がありますが、私には馴染みが薄かった言葉なので、メモを残します。

分水嶺:ブンスイレイ
転じて、物事がどうなっていくかが決まる分かれめ。

コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E5%88%86%E6%B0%B4%E5%B6%BA-623339

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