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LeicaとKodak、最後の煌めき。 『Leica M-E(typ220)』

やっと手に入れることができたライカCCD機。
私が初めて触ったデジタルライカは「M8」だった。フィルム機と変わらないレンジファインダー、メカメカしいシャッター音、フィルムのような情緒ある描写に衝撃を受け、以降、ライカCCD機にものすごい憧れを抱いていた。
そして、フルサイズCCDセンサー搭載のM9が本命となり、「いつかはM9を買うぞ。」と思いながら写真を楽しんできた。
M(typ262)を手にしてだいぶ物欲は収まっていた(笑)ものの、年末に予期せぬ出会いがあり、コレを逃してはあとがない…と、2代目のMデジタル機、M-E(typ220)を迎え入れるに至ったのだった。

伝説的なLeica M9の血統を受け継ぐ、CCDラストモデル。

Kodak製フルサイズCCDセンサー搭載という、カメラファンには垂涎のキャッチコピーとともに登場したM9。M8ではAPS-HだったセンサーサイズがM9で遂にフルサイズとなり、Mマウントレンズの個性的な描写を余すことなく味わえるようになった。
フィルム時代のレンズにも対応するべく、フィルムに極限まで近づけて作られたという専用設計のCCDセンサー。正に「ライカレンズのオートクチュール」である。
1800万画素、ISOは80〜2500。スペック的には時代を感じるが、不便だと感じたことは一度もない。便利なデジカメというよりも、フィルム機のお作法で接する事が大切だと思う。そういうところを好ましく受け取る事ができ、そういうところで悦に入るカメラなのだ。

M-E(typ220) / Leitz Summarex 8.5cm f1.5

Leica M-E(typ220)は2012年発売のCCDセンサー搭載のラストモデル。
基本性能はM9と全く一緒であり、フレームセレクターレバーとUSBポートがオミットされているが、通常使用するのに何ら支障はない。

シャッターの構造もM9を踏襲しており、「ガチャ」とシャッターが切れた後に「ジー!」とチャージ音がなる。この動作音は宛ら自動巻き上げ機能のあるフィルム機のようで、デジタル機とは思えない趣がある。「ライカ、シャッターメカ開発するときにわざとこういう音出るようにしたのかなぁ?」と思ってしまうほど、独特で愛すべきポイントである。

採光窓がある伝統的なレンジファインダーの顔は、やはりこうでなくてはと思わせる説得力がある。M(typ240)以降の採光窓廃止となった後のデザインも悪くはないが、どことなく寂しい感じは否めない。
レンジファインダー部はアナログ、撮像面はデジタル。
このアナログとデジタルの見事なまでの融合こそ、M型デジタル黎明期の面白さの一つだと思っている。

M-E(typ220) / Leitz Hektor 7.3cm f1.9

M-E(typ220)の、特徴的なアンスラサイトグレーのペイントボディ。最初はトイカメラのようだなとあまり良い印象はなかった。
ただ、使って行くうちに、見慣れていくうちに、不思議と素敵な色に思えてくる。(笑) ペイントが擦れることで地金の真鍮が少しずつ露出していく様も楽しめる。艷やかなブラックペイントボディとは違い、このグレーはどこかミリタリー的な雰囲気を感じる。使い込まれた質感が似合う絶妙な色合いだ。
SSダイヤルやシャッター周りはシルバーに統一されている。シルバーレンズを付けた時のスタイリングは最高と言っていいだろう。

M-E(typ220) / Leitz Hektor 7.3cm f1.9

液晶画面はお世辞にも使いやすいとは言えないが、MS-DOSのような風情のある表示(笑)は、操作していてほのぼのとしてしまう。
撮った写真を確認するにも、読み込みが完了するまではドット絵のような表示となるためあまり見る気にもなれない。すなわち、撮影後すぐ液晶を確認することがなくなるため、撮影に集中できるのである。ここらへんはM-D(typ262)にも受け継がれるフィルムライクな使用感である。

M-E(typ220)とLeitz Hektor 5cm f2.5

このM-E(typ220)を最後に、ライカはCMOSセンサーへと移行する。
次期モデルのM(typ240)はほとんどフルモデルチェンジになっており、新型の2400万画素CMOSセンサー搭載によりライブビュー&動画撮影が可能になった。液晶の解像度は飛躍的に上がり、操作性も驚くほど向上している。

工業製品の常で、新モデルは旧モデルよりも「性能」は向上している。
最新のM11なんて、6000万画素のCMOSセンサー、ISOは64〜50000まで、電子シャッター内蔵で1/16000秒の高速シャッターが切れる上に、タッチパネル搭載の液晶で操作感は宛らスマートフォンのようである。

以前の記事と内容が重複するが、私的にはM(typ240)でデジタルカメラとしての性能は頭打ちになったと考えている。
とはいっても、優秀で非の打ち所のないM11という最新のM型はとても魅力的であり、今日の「ライカ」としての輝きを放っていると思う。

デジタルなハードウェアの、機能的充足。
M11という完全無欠なM型デジタル機があるのにもかかわらず、どうしてこんなにもM8やM9、そしてM(typ240)が魅力的に思えてくるのか。
それはおそらく当時のライカ社の姿勢にある。
M7やMPでフィルム機から脱却出来ずにいたライカが、半世紀近く続いたM型フィルム機の歴史を打ち破り、新たにM型デジタル機を開発するという挑戦的な姿勢があったからこそではなかろうか。

大手フィルムメーカーのKodak。
カメラの礎を築いた老舗メーカーLeica。
この2社の奇跡の邂逅により生み出されたCCD搭載M型デジタル機達。
その末裔である「M-E(typ220)」は、フィルムからデジタルへの移行というライカM型大変革の歴史を語りつぐ、記念碑的モデルとも言えよう。

2024年現在となっては、M-E(typ220)は10年前のデジタルカメラである。いつ壊れてもおかしくはない。ライカカメラジャパンからそう遠くない未来、修理サポート終了のアナウンスが出ることが予測される。
いつまでこの素敵なカメラを楽しむことが出来るのか。壊さないように、大切に使っていきたいものである。

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