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風の色

このところ学校からの帰り道にある、公園の木の下でぼーっとする事が多くなった。

私がいつもの木の下に行くと、遠くで絵を描いているとおぼしき人を見かけた。
何を描いているのだろう、と少し好奇心が湧いて来て、そっとその人の後ろに立って絵をのぞき込んだ。

どうやらカラー筆ペンを使って、水彩風に描いているらしい。
だが一体、何を描いているのだろう?

スケッチブックのサイズは、おそらくA3くらい。
中心近くに、青系の色が置いてあり、にじみの中に他の色が何色か入って来ている。
何かの形などには、全く見えない。

「あの、何を描いているんですか?」
思わず私は声をかけた。

私の声を聞いても、その人は振り向きもせず
「風」
と、ボソッと答えた。

その人は、祖父と同年代位だろう、帽子の下には真っ白な髪が見えている。
風の絵ってなんだろう。

それからは、私は公園に行くと、その人を探して絵を描いているところを眺めるようになった。


そのうち、少しずつ話をするようになった。
とはいえ、私が一方的に話しているだけだったが、時折、
「話したらスッキリしたか」
とか
「本当にやりたい事をやるほうがいい」
なんて事をボソッとつぶやいてくれた。


毎日絵を見ていると、風、の意味がなんとなく分かって来た気がした。

様々な鳥の声。
子供たちの笑い声。
風に吹かれて木々がざわめく音。
木々や草の香り。
お日様の暖かさ。
吹く風が頬を撫でる、心地よさ。



そろそろ日が暮れるのも早くなり、寒くなってきた頃、
「これを、あんたにあげる」
と、スケッチブックを手渡された。

そして、ぽつりぽつりと話始めた。

子供の頃から絵が好きだったが、仕事に明け暮れて、絵を描く時間がなかったこと。
やっと定年退職して、好きなだけ絵を描こうとした頃に、徐々に視力を失う病を患ったこと。
物の形ははっきりしないが、色はわかること。

「好きな事や、やりたい事はその時にやらなきゃダメだ」

私が話していた進路の悩みとか、きちんと聞いていてくれてたんだ。
受け取ったスケッチブックを1枚1枚めくって眺めた。

最後の1枚、いままでとは違った感じの絵があった。
なんとなく、人の顔に見える。

もしかして、私?
その顔は溢れんばかりの陽だまりに包まれているような感じがした。

何故だか、涙があふれて来る。

「春には、そんな顔になってるさ」

ソードA(左側)
勝利、未来を切り開く
  
カップキング(右側)
愛情、芸術

このお話の舞台は、五稜郭公園という五芒星の形をした公園の予定でした。
が、短めのお話に公園の詳細の描写とか入れると、長くなってしまう💦
それに、場所に関しての重要度は低いので、省くことに。

主人公が風の絵を、SNSにUPして評判になり、最後に遺産として残すっていう案もありました。
登場人物が亡くなるパターンは、極力使いたくないかも、と思いボツに。

結局、最初に思いついた、風の絵が未来への後押しになる、というシンプルな形に収まったのでした。

サクッと30分で1000文字以内で書く、って目標なのだけど、最近オーバー気味です💦

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