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裏路地、薄暗い店、昭和の刑事ドラマ

 昔、もうじき大学受験という頃に母が、今日は塾の帰りにどこかでご飯を食べて帰って来なさいとお金をくれたことがあった。

 塾は広島駅前だったから、食べる店は周辺にいくらもある。どこにしようかと思っていたらカレー屋の看板が目に入った。
 この看板は前々から見ているが、店がどこにあるのかわからない。この際それを突き止めてやろうと決めて看板の示す通りに進んだら狭い路地の奥にあった。これではわからないはずだ。
『笑ゥせぇるすまん』に出てきそうな感じの店で、高校生が一人で入るにはちょっと怖い気がした。少したじろいだけれど、カレーを食いに行って怒られることもないだろうと思い直してそのまま入ってみた。

 店内は何だか薄暗く、客席が入口から数段低い作りになっている。カレー屋というよりキャバレーのようだと思った。ただし、その時分にはキャバレーなんて知らないから、あんまり適した感想ではなかったかも知れない。
 昭和の刑事ドラマで聴き込みを受けていそうな感じのママさんにメニューを渡され、少し考えてから『スタミナカレー』をそう云った。
 全体、カレー屋のメニューは具が多少変わったところで結局味は “カレー” なので、決めるのに大抵困る。この店のメニューには写真があったから、たまごの黄身が乗っているスタミナカレーが見た目に違いがわかりやすくて選んだと記憶している。
 たまごの黄身を乗せてカレーを食ったのはこれが初めてだった。美味かったように思うが、もう随分昔のことなのであんまり判然としない。

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