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邪悪

 小五の時、銃撃戦が流行ったことがある。
 学校から帰ったら銀玉鉄砲を持って公園に集まり、二手に分かれて撃ち合うのである。ルールも何もないから、撃たれたら痛いだけで勝ちも負けもない。
 あの時代だからできた遊びだろう。
 自分の愛銃はワルサーP38だった。他の友達はルガーP08もいたし、マグナム44を使う者もあった。マグナムは見た目は派手だが、弾が普通の銀玉より大きいものだからあんまり飛ばず、威力は逆に弱かった。

 ある時、同じクラスの竹本君が「仲間に入れてや」と現れた。
 竹本君は交友グループが違っていて、普段あんまり接点がない。精悍な顔立ちで、人を惹きつける何かがあるやつだったから、前から仲良くしたいと思っていた。それで「ええよ」と二つ返事で受け入れた。
 見ると竹本君は鉄砲を持っていない。
「荒木が二個持っとるけぇ、借りる?」
「いや、これがあるけぇ、ええよ」
 そう言って、尻ポケットからゴムパチンコを出した。一人だけ随分レトロな武器である。
「何それ」
「笑っちゃいけんよ。見とってみんさい」
 そう言いながら、滑り台の上からゴムパチンコで一発打ったら、鉄砲よりも随分遠くまで飛ぶ。
「ほら。強いじゃろ?」
 今度は神岡君の足を狙って打ち、神岡君は「痛っ」とひっくり返った。
 竹本君は微笑んでいた。
 そうしてひとしきり、上から敵チームを狙い撃ちした後、地べたへ下りて今度は木の枝の茂みに向かって一発打った。すると、「アイタ!」と荒木が落ちて来た。何だか漫画みたいでつい笑ったけれど、あれは痛かったろう。

 帰り際に竹本君は「これあげるわ」とゴムパチンコをくれた。
 以来みんな武器をゴムパチンコに持ち替えたけれど、当たるとあんまり痛いものだから、じきに銃撃戦はやめてしまった。
 竹本君が来たのはこの一度きりだった。

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