カレーと因縁
大学2年の夏休み前、正門前に新しくできたカレー屋について友人が語り始めた。その店の “たい焼きカレー” というのが絶品なのだそうだ。
初めは餡の代わりにカレーが入ったたい焼きかと思って聞いていたが、どうも違うらしい。
「君、それは逆さ。たい焼きが入ったカレーだよ。白米の上にたい焼きを置いて、その上からルーをかけるんだぜ? 凄いだろう?」
全体それの何が凄いのか甚だ判然としない上に、まるで美味そうな気がしない。しかし友人は、たい焼きの餡が辛口カレーと絶妙に合うのだと目を輝かせ、ぜひ食えと云ってくる。
あんまり強く勧めるものだからその日の昼に食ってみたら、確かに不味くはないがそんなに絶賛するほど美味いわけでもないようだった。
それでもあれだけ絶賛するのだから、何度か食ったら視野が開けて数段美味く感じられるのかもしれない。そう思って夏休み明けにもう一度行ってみたら店がなくなっていた。
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きっとあのたい焼きカレーは話題作りの “飛び道具” だったのだろうと思う反面、もう一度食って判断したい気持ちもある。それがあの時代に残してきた自分のツケのような気もする。
けれども自分で試すのは面倒くさいから他人に試させるつもりで、事あるごとに「むかし食った “たい焼きカレー” がね、実に美味かったのだよ」と強く勧めるが、実際に試した者はないようだ。
よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。