見出し画像

ゴレンジャー、マリリン・モンロー

 もう随分以前に喫煙は止したけれど、自分にとっての煙草は、阪急山田駅の売店でマイルドセブンスーパーライトを買ったのが最初だった。
 学生寮で暮らしていた頃で、クリアブルーの使い捨てライターも一緒に買ったのを覚えている。

 あの時分、色を選ぶ時は大抵、青を選んだ。子供の頃に観ていた『秘密戦隊ゴレンジャー』の影響である。
 ゴレンジャーは赤青黄ピンク緑の五人のメンバーで構成されており、赤は熱いリーダー、青はニヒルでクールな二枚目、黄は太ったカレー好き、ピンクは女子、緑は何か普通の格好いい人というキャラクター設定だった。
 人気があるのはやっぱり赤と青で、自分はアオレンジャーが一番好きだった。
 余談だけれど、ゴレンジャーごっこをやる時には必ず、アカレンジャー役とアオレンジャー役から埋まった。どちらも取れなかった者がミドレンジャーになり、キレンジャーとモモレンジャーはやる気のない者へ無理に「お前、モモレンジャーね」と押し付けていた。
 押し付けられた者はきっと「わし、知らんよ。ゴレンジャーごっこなんかやらんし」と拒んで逃げる。おかげで自分らのゴレンジャーごっこはいつも、五人揃った験しがなかったと思う。

 ある時、寮の部屋で宮内とギターを弾いていたら、不意に、煙草を切らしたから近くのパン屋へ買いに行くと云い出した。
 近くにパン屋があるとは知らなかった。そんな店がどこにあるのかとついて行ったら、果たして寮のすぐ裏にあった。
 パン屋といっても大手メーカーのパンを売っている店である。他にスナック菓子やインスタント食品なども置いている。コンビニが今みたいに発達する以前はこういう店が結構あったのに、今はとんと見なくなった。
 バイトなのか店主の娘なのかわからないけれど、女子が一人で店番をしていた。店番女子は、宮内が「赤ラーク一個」と言うと何だかドギマギしたようだった。宮内が長身の男前だからかと思ったが、単に店番に慣れていなかったのかも知れない。
 宮内はレジ前に置かれているライターから黄色を選んで、「これも」と言った。黄色を選ぶとは何だか意外だった。
 店を出た後で宮内は、「あの子、お釣り間違えたで」と言った。どうも、お釣りが少なかったらしい。
「言いに行くか?」と問うたら、「まぁ、ええわ」と言って釣り銭をポケットに突っ込んだ。
 それからしばらくの間、宮内に会うといつも黄色いライターが目についた。黄色といってもクリアイエローで、何だかウルトラセブンの目を思い出した。
 キレンジャーは欲しくないが、ウルトラセブンなら欲しい。それで自分も、青の次は黄色を買った。

 黄色のライターを使っている間に、今度は雑貨屋でマリリン・モンローの顔がプリントされた偽ジッポーを見つけた。
 値段も手頃だったから早速買って使い始めたら、どうも火が点きにくくて、甚だ使いにくい。やっぱり偽物は偽物である。
 それで、じきに大野にやってしまった。

この記事が参加している募集

自己紹介

よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。