「明言こそされていないが、おそらくあのキャラは死んだだろう/間もなく死ぬだろう」というところで物語を終える→バッドエンド感を和らげる ~映画「ドラゴン怒りの鉄拳」の場合
◆概要
【「明言こそされていないが、おそらくあのキャラは死んだだろう/間もなく死ぬだろう」というところで物語を終える→バッドエンド感を和らげる】は「エンディング(ストーリーやエピソードの終わり)」に関するアイデア。
◆事例研究
◇事例:映画「ドラゴン怒りの鉄拳」
▶1
本作の舞台は、20世紀初頭の上海。
日本(や英国)に支配されていた時代だ。日本人に逆らえば逮捕されたり、殺されたりするおそれがあるということで、多くの中国人は怒りや不満をぐっと堪えて、日本人の言いなりになっていた。
しかし……本作の主人公・チャン(男性、30代?、武術の達人)は違う!
・1:ある日、チャンの師匠が死んだ。チャンはその死に違和感を覚える。かくして彼は真相を探るべく調査を開始した。そしてその過程で、日本人と対立することになる。
・2:チャンは様々な妨害・嫌がらせに遭う。官民を問わず日本人は全員が敵だ。中国警察も同様である(警察はいまや日本の支配下にあると言っても過言ではない)。
・3:一方、チャンの味方をしてくれる者はいない。無理もない。日本人や中国警察に逆らおうものなら殺されてもおかしくないのだ。皆が見て見ぬふりをする。
・4:そんな絶望的な状況にあって、それでもチャンは信念を貫く。正しいと思ったことを為す。不正は許さない。悪は裁かれて当然だ。彼は1人ぼっちの孤独な戦いを続けた。
▶2
そして物語後半……
・Step1:師匠が日本人に謀殺されたことが明らかになる。チャンは激昂し、殺人に関わった日本人を皆殺しにした。
・Step2:だが、ここに至ってついに日本領事館が動いた。彼らはチャンに勧告した「精武館(師匠が作った道場)を閉鎖するぞ。それが嫌ならいますぐ自首せよ」。
・Step3:チャンは精武館を守るために自首することを決意した。自分の逮捕と引き換えに道場を守ろうというわけだ。
・Step4:チャンは大人しく道場の外に出る。すると……嗚呼、たくさんの憲兵・警官が待ち構えており、一斉に彼に銃口を向けた。その多くは日本人だ。英国人の顔もある。そう、彼らは逮捕する気なんてなかった。最初からチャンをこの場で始末しようと企んでいたのだ。
・Step5:チャンは怒りに体を震わせる。この卑怯者!騙しやがったな!なんて卑劣なんだ!彼は「アチョー!」と叫ぶと、憲兵たちに向かって走り出した。そして必殺の飛び蹴りを放つ……と、その瞬間映像がストップ。直後、たくさんの銃声が響き渡った(これが本作のラストシーン)。
▶3
ご注目いただきたいのはStep5。すなわち、「チャンが銃撃を受けるところで幕引きとなる = 彼が殺される様は描かれていない」という点である。
これがいいと思うのだ。
というのも……物語をより盛り上げたり、ご都合主義と批判されるのを避けたりするために、主人公を殺さざるを得ないことがある。
本作もこれに該当すると言えるだろう。
が、主人公・チャンはスーパーヒーローだ。どんな絶望的な状況にあろうとも諦めず、決して引かず、正義のために信念を貫いた。多くの鑑賞者はそんな彼に好意を抱き、共感し、感情移入していたに違いない。
したがって、少しでもバッドエンド感を和らげる必要がある。さもないと多くの鑑賞者は「はぁ!?何この終わり方!」「あり得ないんですけど!」「正義が報われないっておかしくない!?」「こんな映画見たくなかった!」と不満を感じてしまうだろう。
そこで、【「明言こそされていないが、おそらくあのキャラは死んだだろう/間もなく死ぬだろう」というところで物語を終える】という技法だ。
具体的には、本作には「敵の放った銃弾がチャンの体を傷つける場面」や「彼が流血する様子」「彼が事切れる瞬間」「彼の死体」などは描かれていない。
ゆえに、バッドエンド感が和らぐ。
かくして私たち鑑賞者は本作を見終わった時に、「嗚呼、殺されてしまった……。しかしそれにしてもチャンは格好よかったなぁ!」「そうだ、友だちにも勧めてみようかな」「今度は家族と一緒に見てみようかな」などとポジティブな気持ちでいられるというわけだ。
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