数学ダージリン【毎週ショートショートnote】
チェンナイはインドの南東の海岸に面した都市で、ビリヤニが旨い。
ただ、英語もヒンディ語もほとんど通じないので、タミル語ができないと意志の疎通が難しい。
だから、ネハに会って、藁をも縋る思いで声をかけた。
「日本人?」
「違うけど、英語なら話せるわ」
「どこから来たの?」
「中国国境に近い山岳地方から。紅茶の産地なの。隣の村とも言語が違っていて、英語が喋れないと暮らせないところなの」
「紅茶ってダージリン?」
「ダージリンは有名だけど、違うの。もっと素朴でミルクに合う紅茶。あなたは日本人なの?じゃあ数学が得意なのね」
「いや、僕は数学が全くダメで…」
「私も苦手。日本人の先生に教わったのに」
ネハにチェンナイの案内をしてもらい、最後の夜に旨いと評判のビリヤニレストランに行った。
それから、数学ダージリンは、僕らの合言葉になった。偏見、とか、既成概念というと大げさだけど、そういうものがぽろりと崩れたときにクスッと笑うときの。
まだまだ、崩すべきものは、沢山あるのかもしれない。でも、僕らは大丈夫って気がしている。
明日の善き日は、いい天気になりますように。
(了)
ああ、また410字超えちゃった。
何書いても恋愛ものになっちゃうのはなぜ?
田原にか様の企画に参加させていただきました。
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