第六十回 短歌研究新人賞応募作「ストッキングに流れる彗星」/とわさき 芽ぐみ



風見鶏から風を奪う風習のある国(ほし)の姫としての仕事

逆光のひとびとをみる 輪郭をますます研ぎ澄まされる生命

ビギナーズ・ラック・ラックとスキップが半年遅れでやって来てます

太ももに隠した秘密 ストッキングに流れる彗星わたしのものだ

カフェオレに浮かんでた膜の色をしてひねもす皮膚の身代わりとして

ああわたし芸術家にはなれなくてアルミホイルで靴は作れない

ぶわあ、ぶわあ、ガラスの胞子撒き散らしシンデレラたちがたくさん生える

ぶわあ、ぶわあ、ガラスの胞子吸い込んで十二時までに眠ってしまえ

行ってみたいなよその国、って口ずさむ度にほつれてゆく彗星の尾

「黙れ」って言われて黙るデコボコのクワイエット・(クワイエット)

ミリタリー色をまぶして吾の声は街の未来に溶け込んでいる

奥ゆかしい血管と言われ医師の持つ容器に吸い込まれてくB型

(最近は何でも奥に届くのでわたしの奥が奥でなくなる)

いただいた綺麗なハンカチどうしたらいいか分からず埋めてしまった

掘り返すひとのいない駅 もしかしてあの日の球根ここじゃないかな

意味のある優しさとしてわたくしの五臓六腑に注ぐ豆乳

丸ごとの五臓六腑のわたくしを確認するためベルトを締める

もしかしていやたぶんでも恐らくは普段通りの思い切りグレー

しんでいる役をしている人たちの今生きている香りで生きる

免疫を落とされ地球は電流を注ぐ 充電器へその緒になり

心音に流れる空気を沈ませて聴こえるイッツアスモールワールド

ことばびらき、錆び付いた意志と引き出しとメール作成画面を開く

剥奪を恐れていてはまだ何も掴んでいない手が可哀そう

温かい手のひらにする訓練を受けたひとから手品師になる

同じ手を持っているはずと握る手の浅い抱擁ばかりさびしい

長いこと夢に見ていたつめたさはこの木枯らしの冷たさでなくて

高音のカ行鳴らして来る人の夢を食べたい 獏になりたい

シャー芯の最後の一本取り出して何の用途も無くなるケース

現実にあるものばかり消しゴムになってゆくから何も消せない

ほろほろと崩れるネオンの断片を握りしめてた右手が熱い

/とわさき 芽ぐみ

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