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【掌編小説】変幻自在、妻

「しばらく猫になります」と走り書きされたメモがダイニングテーブルに置かれていた。
メモ書きの横には5万円がピン札で置かれ、そら豆型の箸置きが文鎮代わりにお札の上にちょんと乗っていた。
俺の妻がまたおかしなことをしている。
以前もそうだった。何か気にくわないことがあると性転換してみたり、奈良の仏像になってみたり、北海道の雪まつりの一部になっていたりと現実では到底考えられないことをしでかす。もはやサイエンスフィクションだ。
猫になることぐらいではもう驚きもしない。俺を驚かせたかったら実寸大のエヴァンゲリオンにでも乗って使徒でも倒してこい。
今回は猫、ということで野良と家猫とどちらの設定なのか。2LDKの家の中を探してみる。
キッチン、いない。俺の部屋、気配なし。妻の部屋、問題なし。風呂、換気扇の音しかしない。トイレ、そろそろトイレットペーパー買わないとな。おや、野良設定か?
にゃーん
どこらからわざとらしい猫の鳴き声がする。俺の部屋に戻る。俺の部屋のカーテンレールの上に茶トラの子猫がいる。かわいい猫の設定に若干イラついた。妻なんぞ、目つきの悪いサビ猫設定で十分だろ。
しかもこれ、自分から高いところに登ったけど降りれなくなりました助けてにゃーん、てアレだろ?本当そういうあざとい設定がいちいち腹立たしい。
「はいはい降ろしますよー。奥さん早いとこご機嫌直してねー」
茶トラを両手で抱えてフローリングに降ろしてやる。猫、思った以上に柔らかい。
にゃーん
「なんだよ」
にゃーん
「会話したいなら人間に戻れ」
ちっ…にゃーん
「いま『ちっ』って言った?」
茶トラは俺を無視してチャッチャッと音を立ててリビングの方へ向かった。そしてリビングの棚に飾ってあるエヴァンゲリオン零号機のフィギュアを見事なジャンプ、からの強烈な猫パンチで床に叩きつけた。
「ちょっと!俺の!綾波!」
若干曲がったエヴァンゲリオン零号機に茶トラは猛烈な攻撃を仕掛ける。猫パンチ、猫パンチ、猫パンチ。…おめーが使徒側かよ。
子猫とは思えない攻撃で俺のエヴァンゲリオン零号機はあっという間にばっきばきに解体されてしまった。
くそ、こんなとき猫相手にどういう態度取ればいいんだ。
「笑えばいいと思うよ」
隣で人間に戻った妻がニヤニヤしながらそう言った。

#小説 #短編 #ショートショート
#猫 #エヴァンゲリオン
#SF

彼ら夫婦のその後の話
「妊娠16週目、妻」
https://note.mu/1109arisa/n/n096a1bd6e851
©️2018ヤスタニアリサ

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