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【掌編小説】君に何かたべるものを

君は胃袋に忠実だ。
腹が減っていれば怒りやすくなり、満腹になれば機嫌が直って、ベッドに入ってすやすや眠る。
君はとてもわかりやすい。動物的とも言える。
そして君は食に貪欲だ。
食べたいものを食べたいだけ食べて死にたいとよくいうよね。だから長生きしたいって。
数年前まで死ぬことしか考えられなかったのに、今は違う、食べたいものを食べたいだけ食べたなら食中毒だってなんのそのだって。

そして新婚旅行で行った石垣島で本当に食中毒だかなんだかに当たったときに、君はげっそりしてもう死にたいと呻いていたよね。
…諦めが早いよ。

例えば俺が外食して、これはと思うほど美味いものを食べた時には同じものを君に食べさせたいと思う。
きっと君は目を丸くしておいしい!と言って何度も料理を褒めながら頬張るだろう。

俺は君が満足そうに食べる姿を見るのが好きだ。
後から太った太ったやばいやばいとうるさいけど、多少の丸みなら許容しよう。

いまの君は胃袋に忠実だ。でもいつかの君はそうじゃなかった。
ストレスで食が受け付けなくなり、普段の量が食べられなくなった。頰はこけ、目の下にクマができていた。あばらが浮き上がって、肌ががさがさになっていた。

食べたいものを訊ねてもなんでもいいとかあんまり食べたくない、としか返ってこない。
そんな不健康で不幸な君を知っているから食欲旺盛な君を見ると安心して生活ができる。

君の健康と俺の情緒は意外にも繋がっていると思うんだ。
不思議なことに君の体調が崩れるとシンクロして俺も情緒が少し不安定になるんだ。
だからというわけじゃないけど、できるだけ君には健康でいてほしい。

美味しいといって君が幸せそうに笑うとき、もっと美味しいものをこれからたくさん食べさせたいと思う。
君に美味しいものを食べさせたいと思うこと、それも愛のひとつなんじゃないかと思うんだ。

#小説 #短編 #ショートショート
#これショートショートの括りでいいの
#ごはん
©️2018ヤスタニアリサ

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