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【掌編小説】ディア シスタ

お姉ちゃんばっかりずるい。

幼少期のわたしの口癖だった。
お姉ちゃんばっかり褒められてずるい、お姉ちゃんばっかり新しい服買ってもらえてずるい、お姉ちゃんばっかり可愛がられてずるい。

姉はわたしのすべてを上回る存在だった。顔も、偏差値も、運動神経も、むかしはおっぱいだってお姉ちゃんのが大きかった。
家に連れてくる彼氏もガタイが良くて顔もいい男だった。趣味フットサルとか言ってたな。
わたしには想像できない。趣味フットサル男と付き合うことは想像し難い。

出涸らしのわたしは卑屈にそして窮屈に育った。

***

妹はほんとうに何もできない。

頭は悪い、運動神経もない、手先も不器用で音痴だ。

なんでピアノ習ってるのに音痴になるの。っていうか、なんで楽譜読めないの馬鹿なのって聞いたら、先生がピアノ弾く指見て曲覚えるって答えた。そっちのが難しくない?

それに顔も可愛くない。なんていうか父にも母にも顔が似ていないし。疑惑。

中学生の頃、妹の学習机の下にダンボールがあったので開けてみたら男同士が抱き合っている本が大量にしまってあった。
気持ち悪い。その薄い本どこで手に入れるの。

妹とは日々距離を置いて生活することに徹底した。

***

わたしにできて、お姉ちゃんにできないことがひとつだけある。

わたしは割と年の近い人であれば、そのひとの心のなかにしれっと入って仲良くなることができる。お姉ちゃんにはそれができない。
受け身でいながらにして友だちができるようではある。
お姉ちゃんが高校生のとき、クラスでハブになったのを知っている。
わたしはクラスの女子に嫌われることはあってもハブにされたことはない。自慢。

***

私と妹の決定的な違い、それは努力の持続力の差だ。妹は年齢が上がるとともに多少の努力はできるようにはなったけれども、長期的な努力はできない。すぐに飽きたり投げ出したりする。
妹は絵を描くことが趣味だが、努力を継続させることができないため、いつまでたっても上達しない。
わたしはそうじゃない。目的に向かって計画を立てて努力し続けることができる。当然。

***

わたしの母も姉もわたしも名前にいとへんがつく。女の子だから着るものに困らないように、というのが由来だ。おかげさまで着るものには困ってない。でもクソダサい。

わたしのファッショニスタは姉だ。ファッション雑誌は読まずに育ってきたから姉の服を見て学習して似たような服を買った。

偶然同じ店の同じ服を買ってきたこともある。
あれだけ仲が悪かったのに、大学生になってからはお互いに歩み寄って服をシェアしたりした。その頃はお互いの体型も似ていた。
おっぱいも少しずつ成長してお姉ちゃんと同じカップにまでなった。
でも姉の靴を履いたのがバレた時にはカタチがかわるからやめてって言ってるでしょ!とメチャクチャ怒られた。

***

子供が産まれてわかったことがある。
妹は子供と遊んだりあやしたりすることがうまい。どこで覚えたんだろう。
人見知りをする娘にせがまれて抱っこして、そのまま寝かしつけることもできる。

磁石でお絵かきするおもちゃで娘と遊ぶ妹。娘が「ゾウかいて」とリクエストすると、さらさらと象を描く妹。
娘の誕生日に自作の絵本をプレゼントしてくれた。そうだ、私は絵を描くことが下手だった。私には絵を描いて娘を喜ばせることはできない。

***

結婚式の日。
この日だけはわたしが祝われる日だと思っていた。
披露宴のあと、親戚のおじさん、おばさんが集まって話しかけてくる。
と、あるおばさんが姉の腹の膨らみに気づく。

「あら、もしかして2人目?」

「そうなんです」

おめでとう。予定日はいつなの、今度は男の子?女の子?と一斉に姉は質問責めにあう。

こういう巡り合わせなんだろうなって思った。
いつまでも姉が主役。
わたしはいつも姉の後ろ。

視界の下で姪がわたしの服を引っ張って話かけてきた。

「さっきとっても可愛かったよ」

ありがとうと言って姪を抱き上げた。
こんな愛おしい生きものを産んでくれてありがとう。お姉ちゃん。

***

私は知ってる。
妹は持病があって、ときどきやけを起こして周りに迷惑をかける。あわよくばこの世を去ろうとしたこともある。
だけど、ギリギリまで踏ん張って、また持ち直すのだ。
ただただ生き方が不器用なのだ。

幼い頃は確かに私のほうが親族に可愛がられた。
妹はいま結婚をして、ようやく自分の道を自力で、あるいは彼女の夫とふたりで切り開こうとしている。
私と妹はまったく違う。でもそれでいい。
妹はそのユニークな妹の道を歩んでこそだと私は思う。

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