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心に残る母に贈ったもの

今年の母の日は何もできなかった。そんな時もあるよね…と自分で自分を慰めながら、これまで母に贈ったものについて振り返ってみた。

そもそも、私が母に物を贈ることはほぼ無く、それに文句も言わない母である。そんな私が母に贈ったもので心に残っているのは、物ではなく経験だ。


経験の贈りもの

昔とった杵柄を活かして、私が母に贈った経験…それは『1日体験演歌歌手気分』だった。かつて私は1年間だけ演歌歌手の付き人をした経験がある。

その昔…美空ひばりに憧れて歌手を夢見て北海道から上京した母は、儚く夢敗れた。病気がちの夫と結婚し、五人の子どもに囲まれて、母は母なりのやり方で必死に生きてきた。波乱万丈をくぐり抜けて、いまや老人になっていた。

が、そこからが母の檜舞台だった。演歌が大好きな母は、日頃習っているカラオケのお披露目の場である老人会の発表会で、地元の立派なステージに立つ機会があるのだ。観に来てほしいと誘われるたびに、私は平日は仕事だから無理と断っていた。

そんな私もついに根負けし、付き人経験を忘れないうちに、一度だけ母の思いを果たしてあげようと思い立った。


買い物へ

まずは衣装選びから。
買い物へ同行した。老人向けの婦人服屋さんには、ステージ衣装コーナーがある。フリフリ、キラキラした、まるでウエディングドレスかと思う物が数千円程度の値段で並んでいる。店に入ると母は目を輝かせて次々と試着を始めた。その感じは不思議と大物芸能人と変わらない。
「ステージの光では青が映えるんだよ」という私の助言に素直に従い、ブルーを含めて3着のドレスと、鳥の羽根のようなショールをプレゼントした。占めて1万円前後だったと思う。安いもんだ。母は子どものようにはしゃいでいた。


老人会の発表会当日

私は全身を黒づくめで整えた。髪を後ろに結き、黒い服、黒いスニーカー、黒いウエストポーチにはメイク道具やヘアピン、スプレーなどを備えた。

実家に母を迎えに行くと、コンサートを前にナーバスになる芸能人さながら、不安な表情の母。あらあら、忘れ物はないかな?と一緒に確認。日頃は化粧っ気のない母だが、メイク道具もしっかり買い揃えて準備してあった。

会場に着くと、老人会の会長やら仲間たちとのご挨拶を交わす。あら、今日は娘さんと一緒?そんな声が掛かるたびに自慢気な母を見て、もしかして親孝行できてるのかも、と感じた。

控室に入るともう、付き人の本領発揮。
照明の明るいテーブルを選び急いで化粧道具を並べ、衣装をかける。母のメイクは華やか目の舞台メイクに仕上げた。髪はアップして、付け毛でふんわりさせ、スプレーで固める。髪飾りには大きめなガラス細工のイヤリングをヘアピンで留めた。キラキラ揺れるイヤリングやネックレスは、母が用意した中からブルーのドレスに合わせて一緒に選んだ。


よし、いざ出陣!!

色々と準備しただけに、母は緊張してきた様子。出番を待つ間、舞台袖では気分は演歌歌手と付き人に徹した。きれいきれい、大丈夫、頑張ってね!私はまるで孫の発表会をハラハラして見守るお婆さんのようだ。いつの間にか、ステージに歌手を送り込む付き人のメンタリティになっている私だった。

母の歌が始まると、急いで観客席へ。見え方や歌声を確認する。歌い始めは緊張してかすれていた声も徐々に張りを取り戻し、身振り手振りは大物演歌歌手さながらに頑張っていた。舞台袖に戻ってきた母は、練習した割には上手くいかなかったと不満のようだった。
良かったよ、いい声でてたよ、きれいだったよ💖
満面の笑顔と拍手で迎えてあげた。

帰り道

母と私は関係者に挨拶しながら会場を後にした。母は、やり切った満足感と私を連れ回した満足感で満たされているようだった。やって良かったな。お互いに一生の思い出になったと感じて私も嬉しかった。

記念の写真は

後日ブルーのドレスの母の写真はキラキラしてとても美しかった。思い出の一枚になった。というか、母だけを撮った写真はこれが初めてだった。

お母さん、お葬式の写真にしてあげるよ。ときついジョークに、
ありがと💖
と真面目に喜んでる母が可愛かった。



zzzkeitacionさん、
ステキな写真を使わせて頂いて
どうもありがとうございます♪

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