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三題噺 夕焼けと影武者

お題:光と影の間の世界、影を操る者、風を聞く塔


 光と影の間の世界は一体どういう世界だろうか。
無?光と影が両立している世界、夕焼けの時間はちょうど辺りの暗さと光度が釣り合って影が消える。

ほかには思いつかない。
光と影を何かの象徴として、その間の世界を描写する。
たとえば検察と極悪犯罪者の弁護士、その間の世界とはおそらく裁判官となるか。


影を操る者。
これはそのまま影を操るキャラクターとして扱う。

影を象徴的存在として、それを操る職業を取り扱う。
影。概念的か、哲学的か、物理的か。
個人的には、夕方の世界に影が存在しないのは、影を切り取る存在がいるから。とか面白そう。


風を聞く塔。高い場所、だから風は強く通る。
風を聞く、聞いて、セッションするように鳴く、泣くこともあるか。
風を情報の概念として捉えて、風を聞くことで世界の情報が集まる場所にする。


 そうするとおぼろげに物語は見えてくる。

光と影の間の世界は夕方の時間帯、影を操る者が夕方の人の影を切り取っている。
そして、切り取った影はその人の一日の行動情報が含まれていて、それを風を聞く塔に持ち寄る。
情報は風となって塔に送られ、アカシックレコードとして保存される。

 そんな世界観の中で、どういう話がおこるだろうか。
影を切り取る者をどう呼ぶか。
影武者として影は刀で切り取る。

そうすると、塔ではなくお城になるか。
そして悪いことをしている人には、お城から忍者が派遣される。
そして、悪いことをした人には同程度の悪いことが自然発生的に起こる。
または、良いことゲージ、悪いことゲージがあってそれが一定まで達するとその人間に何かを与えられる世界。

 そうした世界の中で、主観は影武者に自ずと絞られる。
舞台は決まった。
感情は、不条理に対する反抗。

 ホワイトライ、等のように実際としては悪いことをしているが、本質としてはその人にとって良いことをしている概念。
これを、お城は汲み取れず、悪いこととして把握する。

 この世界で、本質的には良いことだけど、傍目から見ると悪いことをやっている人間は、どういった人間か?

 害獣対策の狩人。
安楽死が合法でない日本で遺族からの願いとして安楽死を裏で行っている医師。
身寄りのない子ども達を集めた孤児院で子どもを育てて、傭兵とするおばさん。

以下本文。

 光と影の間の世界は、存在する。

 陽射しをさえぎり影を落とすビル群に、日傘の下に、夜ご飯に間に合うように走るこどもたちの足下に。

 これらは影の境目として存在する。


 これは、光と影がつりあう世界。


 日がてっぺんを超え、地平線を目指しはじめる頃。白から赤へとかわっていく時間。

 夕方は、日の暗さと影の色がちょうどつりあって、影が消える。

 物理的には影とそれ以外の場所で明るさが同等である、ゆえに影はなくなる。

 だが、そうではない。

 外回りが終わり、せわしなく足を運ぶリーマン。商談はうまくまとまらなかったのだろうか。眉間にしわをよせ、足早に事務所へと向かう。

 その足下に沿ってあるはずの影は、切り取られた。 


 この世は、影武者が影を切り取ることで影が消える。

 切り取られた影は、風に乗せてお城へと運ばれる。

 高ければ高いほどいい。遠くからでも影を送れるから。そうしたお城はもはや、塔と形容した方が近しい高さとなっていた。


 影は、人から肌身離れず行動をともにする。

 影は、もう一人の自分だ。

 影は、自分が何をしたか全てを知っている。


 そうした影は本人と同一の知識、記憶、経験を持っている。本人さえも自覚しない、本当の気持ちも。


 お城はその影を集めて、アーカイブを作る。

 アーカイブを下に、人間に対して総合的な評価をポイント制で下す。


 例えば。

 ポイ捨てをすればマイナス1ポイント。ゴミを拾えばプラス1ポイント。

 人を殺せばマイナス100ポイント。人を救えばプラス100ポイント。


 影武者は考える。この画一的な制度では扱いきれない、現実の複雑さを。


 影武者は、リーマンから切り取った影を思い返す。


 取引先からの理不尽なクレーム対応にあてがわれた怒り。

 平日昼間にもかかわらず、1つもあいていない電車の椅子。

 掃いて捨てるほどあるいらだちを、通行人の肩にぶつかることで解消しようとする。


 マイナス50ポイント。


 ポイントはお城で精算され、人生の節目となるタイミングで人間にその効果を発揮する。


 例えば。

 最終面接帰りの就活生が、側溝に落ちて面接にも落ちる。

 家族に当たり散らかした受験生は、過去に例を見ない難問にうちひしがれ第一志望校に落ちる。


 影武者は考える。

 プラスとマイナスの境目は何だろうか。お城は何を基準としているのか。


 密漁禁止のサイの牙を取る人。

 人里に下りてきた熊を狩る人。

 どちらも動物に危害を加えており、マイナス10ポイント。


 だが、後者は果たしてマイナスなのか?


 「死刑になりたい」と言う、殺人者。 望まない妊娠をした女性が選ぶ堕胎手術。

 どちらも人を殺しており、マイナス10ポイント。


 その人が、その行動を取るまでに至った経緯、背景、思想、感情。そういったものを完全に無視してお城はシステムされている。


 影武者は考える。

 なぜ、人を撃ち殺した人がマイナスを喰らい、戦争をけしかけた首謀者はマイナスを喰らわないのか。


 しかし、考えても詮無きこと。影武者はただ、影を切り取り、お城へ向かう風に乗せるだけ。


 今日もまた、やってくる。


 終わりなき、公正な仕事をこなすため、影武者はその刀を振るう。