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無題

tamatebako. その名も玉手箱。ときたもんだから、中から何がでてくるのやらとこころを躍らす。炊き立てのお米、雨の後の濃い緑、研いだばかりの包丁で切った青リンゴ、みつばちがせっせとみつを調達しにいく場所にうわっと集まる三つ葉の群れ、でっかい竹炭がすっきりさせた冷蔵庫の3段目、7時から9時半までだらっとちゃっかり太陽から栄養をもらったタオル、いろんないろんなにおいが詰まっている。丁寧に絹が張ら

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ものすごい鉄

ものすごい鉄があります。ものすごい鉄は、太陽を直接見てもまったく眩しくないし、冷たい水で洗濯しても洗剤の粒は全然残らない。同じ作業を何千回と繰り返しても疲れをみせないし、カラスたちに一目置かれていて、ヒナが眠る巣を守っているカラスでさえ恭しく挨拶をする。ドライヤーとエアコンを一気におもいきり使ってもブレーカーが落ちたことはないし、宝くじに至っては当たったことがない。300円も当たらない。信号を渡る

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time to throw open

水中に潜っているくじらに会えるというから、おたまについていった。
船に乗るのなら小さな赤いエンジンがついてるやつがいいなーといったら、「かもめだって船乗らないだろ」っていう。かもめとわたしたちは全然ちがうのに。

おたまは少し大きいパーカーの裾をひらひらさせながらどんどん緩やかな丘をのぼっていく。風は強く、どっしりと重い雲が空1面をおおってるけれど、視界がひらけて空気は生暖かかった。石につまずかな

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のぞみちゃんは牛乳をかかさない

買い物袋は両手にさがってる。右のほうが重い。指に思いきりめりこむ重さだ。まとめ買いしたトマト缶を詰め込んだからだ。じゃがいもも入っている。かといってのぞみは、2つの袋の重さがバランス良くなるようにはいれない。いちばん重いものから軽くて潰れやすいものを、ひたすら順番にいれていくだけだ。

スーパーから家までの途中に、人通りのやたら多い商店街がある。顔が異様なまでにそっくりで母と娘と思われるベージュの

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