無題

来世あんたは蚊になるよ。ってなにもそこにこれといって意図はなくただ淡々と言われても、ふーん。蚊かー。あんまり早くは飛べなさそうだなあ。浮遊。って思いながら玄関のドアを閉じて、靴をぬいだ。お気に入りの革靴だから、ささっと玄関の棚に置いてある小さなブラシで撫でてから部屋にはいった。それさえもちいさなライムの習慣でそこに意図はない。

ライムの得意なこと、それは、歯磨きをしながらあたまの中まできれいにすることである。これは訓練してできるようになったわけではない。ただしそれをやるまでに27年くらいかかった。必要になったから、からだが勝手にやりだしたってかんじだ。

眠ることがいちばんの頭の掃除であることはライムも知っている。眠っているあいだ物理的に脳髄液がゴミを流してくれるってんだから、からだって面白いもんよ。ゴミってなんだよ。ってライムは軽くひとりごとでつっこんだりもする。

でも起きているときにする掃除はそれとは別で、わりと大事だ。大事に大事にしていたのに片方なくしまったイヤリング、割ってしまったマグカップ、そのことをそのときにはきっちり悲しむけれど、次の次の日くらいにはすっとこころから手放す。歯磨きをしながらあたまをきれいにするとはそういうかんじだ。だから思わず、1時間くらい歯を磨いているときもある。だからって別に歯がとても丈夫で、というわけではなくライムの右下奥歯はちょっとたまに虫歯気味になる。歯医者の予約日を忘れていてそのときたまたまなくなっていた歯磨き粉のストックを買いに行ったりすることもある。おいおい。それもまた日常であった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?