見出し画像

40歳のラブレター 第5話

(手紙 その5)



 東京は少しずつ暖かい日が増えています。ようやくですよ、ようやく。今年は冬が深い気がします。札幌に住むあなたにいうことではないですが・・
 
 僕があなたをどの時点から、好きだな、と思ったのかは自分でもよくわからないです。そう言う思いがきちんと出来上がる前に、自覚する前に、毎週車で迎えに行き、練習に行き、週末は小岩とか江戸川とか割と遠方まで試合に行き、その行き帰りの道のりを、あなたは助手席にいて、後ろの席には道すがらピックアップするサークルのメンバーの子たちがいて、という当たり前の日々が先に出来上がっていました。僕が家を出て、最初にピックアップするのがあなたで、最後に落とすのがあなただから、途中で乗り降りする他のメンバーからすれば、いつも僕とあなたが乗っていると言うように見えていたと思います。

 だから、あなたが何かの理由でいないときに感じた違和感、不在感が、僕はあなたに好意を持っているんだと自覚したきっかけだろうと思います。

 その日の帰り道に、一人で車に乗っているときに流れていたのはミスチルで、「名もなき詩」とか「Innocent World」だったりでした。いい時代のミスチルです。一人で街道に出て、一人で梅雨の雨上がりの道を走っている時に、その湿度を含んだ重たい空気の中に、すごく寂しい気体が混じっていることを感じました。明らかにそこには生気の足りない空気の塊があるのです。当たり前に助手席にいたあなたがいない街道で、大音量で流しているミスチルはなんだかとっても場違いで、間違った音楽のように感じました。

 それで、僕は多分、あなたのことを明確に好きなんだな、と思いました。多分、明確に。おかしい日本語ですが、そう言う表現でいいような気がします。
 
 車の中では、何を話したと言うより、どんな曲を聴いたかばかりを覚えています。一番よく聴いていたのはミスチルで、次にサザン、そして、女性ではaikoとPUFFYですね。「シーソーゲーム」が流れると、口ずさみながら僕は微妙な気持ちになり、あなたが「アジアの純真」を歌うと、一緒に歌いたくなり、「カブトムシ」が流れるとなんとも言えない沈黙になって。そして何と言っても一番心に残っている曲はサザンの「LOVE AFFAIR」で、ボーリング場にもよく行ったし、一緒にベイブリッジを走り大黒ふ頭に行ったりもして、でも、いつも他人で、他人以上の何かではなくて、だからこそ頑張って。曲のまんまだな、なんて思っていました。好き合うほど何も構えずに、でも、好き合ってはいないよな、などと。

 今でも、「LOVE AFFAIR」を聞くと、気持ちはベイブリッジを空に向かって坂を上ります。お台場方面に向かう橋の中央の手前で「空まで飛んでいきそう」と言ったあなたの言葉が忘れられません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?