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ゲイの「ハッピーサマーウェディング」への嫉妬

「父さん母さんありがとう 大切な人ができたのです」。モー娘。の人気曲「ハッピーサマーウェディング」のリリースから、約20年の月日が流れたーーー。「ザ・幸せな結婚」の世界を展開するこの曲には、アラサーゲイの私の心に染みる言葉が並ぶ。それは、「自分の恋愛遍歴を明るくあけっぴろげに親へ告白できる主人公」への嫉妬と、憧憬だ。

当時、結婚はみんなのゴールだと思われていた。統計によると、2000年リリース時、男性の生涯未婚率は10%程、女性については何とわずか5%程だ。一方、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると2035年には男性30%、女性20%ほどに上るとされる。時代は未婚化が加速している。

「これが、私たちの幸せだゾ」。ヘソ出しの彼女たちの姿は、まぶしすぎて直視できない。それはこの曲に説得力を持たせる「自分語りパート」のせいであり、大阪の「海水淡水化プラントメーカー」でOLをしていた、中澤裕子氏という存在のせいだ。

(※注:この曲はめちゃくちゃ好き)


この曲との出会いは、小学生の時だった。
私は、モー娘。が、世界で一番好きだった。

CDアルバムがすり減るほど親の車で繰り返し曲を聴いた。当時から、心は女子のようにかわいいものが好きな男子だった。かわいいモー娘。たちの「ハピサマ」の歌詞はもちろん好き。キラキラの「恋愛集大成リリック」。畳み掛けられていく。結婚を通じ、親から「承認」されていくストーリーが展開される。

しかし、だ。当時「男が好きな自分」を自覚していた自分にとっては、「男が好きな自分は、この歌を歌えないのかもしれない」と困惑し、暗い気持ちになった。自身の恋愛を、明るくあけっぴろげに親へ告白できる主人公への嫉妬でもあった。

時は経ち、一部メンバーの不倫や飲酒運転などの事案が重なり、心はモー娘。から離れていた。しかし数年前に何気なく、YouTubeのおすすめに表示されたこの曲を聞いてしまった。

コングラチュレ〜ショ〜〜〜〜ン


パンドラの箱が、開いた、瞬間である。

「これが将来の私たちの幸せだゾ!」と訴える、へそ出しのモー娘。たち。薄汚れた心を抱えるアラサーゲイの私は、それを眩しすぎて直視することができなかった。とともに、憧れの気持ちへと変わっていたのだーーーー。


曲中で「親への彼氏紹介」のセリフを担当するのは、リーダー中澤裕子氏。モー娘。に入ったのは24歳から。それまで大阪の「海水淡水化プラントメーカー」でOLをしていた。総務課で受付などをしていたらしい。この背景を知ると、聞き手は中澤裕子には自己投影してしまう。

この曲の鍵を握るのは、サビに向けて人生を振り返る「自分語りパート」だ。ここのBメロで思いを募らせ、盛り上がりの頂点・サビにつながる。

つまり、過去に浸る自分語りの内容は以下の通り。
「何度となく くじけそうな日もネ 夢がわからなくなった時も 愛がたりないなんて甘えたり 困らせてばかりだったけど」
「思春期ではほんの少しだけ それなりに反抗期迎えた 学生の頃 恋した彼には父さん 怒鳴ったりしていた」

これこそが、裕子の追体験である。


なんだか私も、思春期に彼氏を家に連れてきたような気分にさせてくれるのだ。そして裕子みたいに、大阪の海水淡水化プラントメーカーの総務課でOLをして、証券会社の男と合コンで出会って、結婚。
(大阪の海水淡水化プラントメーカーでOLという言葉がめちゃくちゃ好きだし、大阪の海水淡水化プラントメーカーでOLをするという感じが、めちゃくちゃ、好き)


国立社会保障・人口問題研究所によると、生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことがない人の比率)は2035年には男性の29%、女性の19.2%に上昇する見通し。つまり、男性のおよそ3人に1人、女性の5人に1人が生涯未婚者となる。一方、00年リリース当時、男性未婚率は約10%、女性未婚率は約5%だった。データを調べてみると、20人に1人しか「生涯未婚」は居なかったことに驚く。リリース当時は、結婚は誰もが当たり前にする「みんなのゴール」という認識だったろう。


しかし結婚が当たり前ではなくなった今、私たちはそれぞれがゴールを見つけなければいけない。それぞれの収入の問題、キャリア形成の問題、恋愛の問題、自己実現の問題、老後の問題などを、両手いっぱいに抱えながら、孤独と向き合わなければならない。


もう、20年前のヘソ出しモー娘。たちは、私たちのことを、教え導いてくれるわけではないのだ。

私たちは、証券会社の杉本さんも、何もかも自分自身の力でつかみにいかないといけないのだ。

そのためには、ヘソを出して踊ろう。

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