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サービス・リカバリー

1.サービスの失敗と顧客の苦情行動
失敗に遭遇した顧客の心理や行動について知ることが不可欠である。
①苦情行動のタイプ
②苦情行動の動機
③企業にとっての苦情の重要性
④苦情の要請

①苦情行動のタイプ
サービスの失敗を経験したあと、一定水準の不満足やネガティブ感情(怒り、失望、不安など)を抱いた顧客の中には、苦情行動(complaint behavior)をとる者もいる。苦情行動のタイプは 1、サービス提供者に対する苦情(complaint to provider)、2、ネガティブなクチコミ(nagative word of mouth)、3、第三者機関への訴え(third-party action)の3つに分類することが一般的である。

②苦情行動の動機
顧客がどのような動機にもとづいて苦情動機を起こしているのかを考えることは、サービス失敗に対して適切な対応をする上でも重要である。

③企業にとっての苦情の重要性
顧客から寄せられる苦情は、企業のサービス改善にとって貴重な情報源となる。顧客からの申し立ては、企業にとってサービスリカバリー(service recovery)の機会となる。企業にとって苦情を要請することは、ピンチをチャンスに変える機会を創出することだとも言える。

④苦情の要請
サービス保証の提示に加えて、サービス提供者から積極的に苦情を要請することも必要である。苦情を申し立てるチャネル(口頭、電話、Eメール、など)を複数用意し、顧客の苦情に対する知覚コストを下げる努力も欠かせない。

2.サービス・リカバリーの方法と効果
(1)サービス・リカバリーの方法
適切なサービス・リカバリーの方法を考える上で有力な指針となるのが公正理論(justice theory)である。公正理論に基づくと、顧客は企業のサービス・リカバリーについて3つの視点から公正(フェア)か否かを評価し、それらの結果によって満足度が決まるという。3つの公正の次元はそれぞれ、分配的公正(distributive justice)、手続き的公正(procedural justice)、相互作用的公正(interactional justice)である。

①3つの公正の次元

◇分配的公正
苦情申し立ての結果、「最終的に受け取った返金やクーポンなどの経済的補償に対する買手の評価」を意味する。
EX 返金、割引、クーポン、ポイント付与、商品交換/サービス再提供、プレゼント、サービスのアップグレードなど
「何を」補償すべきかに加え、「いくら」補償すべきかも重要なポイントである。近年の研究によると、サービスの失敗によって顧客が被った損失金額と同額か少し多いぐらい(1.2倍程度)を目安にするとよいという。
顧客に対して誠意を示すためにより多くの補償を行う場合でも、損失金額の1.7倍程度まで抑えるべきである。

◇手続き的公正
手続き的公正は、「失敗に対する対処が、公正な手続きのもとで行われたかどうかを表す」概念である。組織内で迅速に情報を共有し、顧客対応にあたる体制を構築することの重要性を示す。

◇相互作用的公正
相互作用的公正は「サービス・リカバリー担当者とのコミュニケーションに対する買手の評価」を意味する。サービスの失敗に対して謝罪する、サービスの失敗の原因や今後の対応方法についてきちんと説明をするといったことが大事である。

②どの公正が重要か
どの公正を重要するかは文化によって異なる。これまでの研究では、東アジアのような集団主義文化の顧客に対しては説明が有効であり、欧米のような個人主義文化の顧客には補償が有効であることが明らかになっている。

(2)サービス・リカバリーの効果
サービス・リカバリーの目的は、顧客の満足度を回復させることである。逆説的ではあるが、そもそもサービスの失敗を経験していない場合よりも、高水準の顧客満足を生む可能性すらある。これをリカバリー・パラドックス(recovery paradox)という。
顧客満足の回復が多くの企業にとって重要とされているのはなぜだろうか。それは、顧客満足を回復させることによって、企業の売上や利益に直結する様々な心理・行動を改善させることができるからである。適切なサービス・リカバリーの実践は、リレーションシップ・マーケティングの推進においても欠かせない。

3 サービス・リカバリーの実践を支える組織的取り組み
「自分ならきっとうまく対応できる」という自信を持つことが必要である。

(1)サービス提供者に対する技術的支援
サービス提供者のリカバリー業務を支援するために、組織が行う施策をインターナル・サービス・リカバリー(internal service recovery)と呼ぶ。インターナル・サービス・リカバリーでは①サービス提供者に自信を持たせるためのリカバリー技術の向上、②サービス提供者のストレスを軽減させるための精神的支援の2つが目標とされている。
エンパワーメント(empowerment:権限委譲)とはサービス提供者に対して一定の範囲で意思決定の権限を付与することである。苦情を受けたサービス提供者が上司の判断を仰がずに、自身の判断で即座に問題解決に当たれる態勢を整えておくことは、迅速な対応の実現という観点から有効である。

(2)サービス提供者に対する精神的支援
上司をはじめとする周囲の人間が、サービス提供者に寄り添い、励ましたり、配慮を示したりすることが不可欠である。
インターナル・サービス・リカバリーは、顧客から寄せられる過激な苦情からサービス提供者を守る取り組みとしても、今日重要性を増しているように思われる。

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