松下幸之助と『経営の技法』#361

2/10 自分は自分

~100億の人がいても自分は自分である。他人とは違うという誇りをもちたい。~

 人間と犬とは違う。これは見ただけでわかる。だからお互いに犬の真似はしない。人間としての誇りを知らず識らずもっているからである。だが、見ただけでわからないのが人間同士である。なるほど顔も違えば気性も違う。これは誰でも知っている。だから人を見違えるようなことを誰もしない。それなのに、どうしてみんなあんなに、他人と同じようなことをやりたがるのだろう。
 自分は自分である。100億の人間がおっても、自分は自分である。そこに自分の誇りがあり、自信がある。そしてこんな人こそが、社会の繁栄のために本当に必要なのである。自分を失った人間が100億おっても、それこそ烏合の衆にすぎない。自己を認識しないで、ただいたずらに他人の真似をしたがるのは、あたかも人間が犬の真似をするのと同じである。そこには何の誇りもない。
 お互いに、自分が他人と違う点を、もっとよく考えてみよう。そして、人真似をしないで、自分の道を自分の力で歩んでいこう。そこにお互いの幸福と繁栄の道がある。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここで、松下幸之助氏が重視しているのは多様性であり、組織論として見た場合には、均質的な従業員が集まる組織よりも多様な従業員が集まる組織を指向することになります。
 たしかに、経営モデルとして見ると、イメージとしては、ワンマン会社や一部のベンチャー企業のように、カリスマ的なリーダーによる強力なリーダーシップのもと、従業員には、経営者の決定を忠実・迅速に遂行することが期待されているモデルがあります。このようなタイプの場合、組織の一体性や突破力は凄く、それが原動力となって特定の分野で急成長し、存在感を高めることにつながります。
 けれども、これと逆の経営モデルもあります。
 それは、松下幸之助氏がかなり早い段階から採用し、磨き上げてきた経営モデルで、従業員にどんどん権限移譲するものです。従業員には、多様性が求められており、一体性の確保が重大な課題ですが、経営者一人のキャパを超えた大きさや内容の仕事を、長く持続させることが可能になります。
 このような経営モデルを磨き上げてきた松下幸之助氏だからこそ、社会現象として均質化した反応を見ると、社会の脆弱性を感じるのでしょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 ここでは、①投資家である株主と経営者の関係の問題と、②経営者が実際に競争を行う市場の問題を検討しましょう。
 1つ目の、①株主と経営者の関係での問題の中心は、前項で見たような会社組織の在り方です。
 経営モデルを確立するのは経営者の仕事であり、多様性よりも一体性や突破力を重視するのか、逆に多様性を重視して、ゆっくりとした拡大や持続性を求めるのか、経営者の資質を見極めるポイントがわかります。
 2つ目の、②市場の問題の中心は、市場の多様性に対する理解です。
 ここでの松下幸之助氏の懸念には、市場の多様性が失われることに対する懸念、という側面も含まれ得ます。経済学の問題領域になることですが、市場の多様性がなくなると、硬直化して市場の本来の機能が発揮できなくなります。これは、消費の問題だけでなく、氏がここで言及するように、人材輩出の機能まで低下させてしまうのです。
 このように、ガバナンス上の問題のうち、特に2つ目の問題は、経営者として常に市場に向き合ってきた松下幸之助氏が、肌感覚として実感してきた問題であると言えるでしょう。

3.おわりに
 生物学的にも、多様性が種の保存のために重要である、と言われていることは、誰にでも理解できることです。つまり、強い者が生き残るのではなく、変化に適合した変わり者が生き残るのが、ダーウィンの進化論ですが、そのためにも、人間自身も多様でなければ、社会や会社が変化に対応できなくなるのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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