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松下幸之助と『経営の技法』#365

2/14 いろいろな見方

~1つの物事にもいろいろな見方がある。見方次第でマイナスにもプラスにもなる。~

 同じ1つの物事であっても、それに対して、いろいろな見方があり、さまざまな面から考えることができるわけです。だから、一見してマイナスと思われるようなことでも、実際にはそれなりのプラスがあるというのが世の常ではないかと思います。言ってみれば、雨が降れば着物が濡れて困ると見る見方もある反面、畑の作物を潤してくれると喜んで見る見方もあるわけです。
 ところが、そのうちの一面のみを見てそれにとらわれてしまうと、いたずらに心を悩ませたり、極端な場合は絶望して自らの命を絶つといったような不幸な姿にも陥りかねないわけです。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資先です。しっかりと儲けてもらわなければ困りますが、投資家も、経営者の資質を見極めなければなりません。
 ここで、経営者の資質として注目するのは、リスクに対する見方です。
 それは、リスクをチャンスと見ることができるか、という問題です。経営者は、株主から「儲ける」ようにお金や機会を託されています。古今東西、リスクを取らなければ利益が無いことは、絶対的な真理として確認されてきたことですから、経営者は、リスクを取らなければなりません。
 けれども、近時の「ガバナンス論」は、経営者に対する牽制ばかりであり、経営者の本来的な役割である「リスクを取る」ことをサポートする機能を持ちあわせていません。もちろん、賭博やギャンブルではなくビジネスですから、適切にリスクを取ることが必要ですが、リスクを取ることが利益につながることを理解していれば、無暗矢鱈にリスクを怖がり、ひたすら避ける、という事態を避けることができます。そのための大事な視点が、リスクの中にこそ利益がある、という視点であり、ここでの松下幸之助氏の言葉につながっていくのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 ここでは、内部統制の問題=経営組織論の問題であり、会社組織が、経営者の意向どおりに機能するか、というトップダウンの面と、経営者が適切にリスクを取れるように、リスクセンサー機能とリスクコントロール機能を発揮し、デュープロセスを果たして、経営判断のための適切なお膳立てができるか、というボトムアップの面の両方を、備えなければならないのです。
 経営者としては、リスクを取るという決断をした後の場面では、その決断を組織全体がフォローし、実行してくれなければならないので、トップダウンの面が強くなります。経営者以外、誰も決められないような組織では、このトップダウンの面が強くなっていきます。
 他方、経営者が、リスクを取るという決断に至る過程を考えると、社内の関連各部門が十分な情報を提供し、十分に検討することが必要で、このようなリスクを取るための作業を各部門が適切に行えば、経営者はじっくりと決断することに集中できます。このような会社組織では、経営の決断のためのお膳立ても組織ができるようになりますので、ボトムアップの面が強くなります。
 このように、経営者がリスクに目を向ける、ということを、会社組織に落とし込むと、対立する要素として描かれがちなボトムアップとトップダウンの両方が必要であり、上手に両立させなければならないことが理解できます。

3.おわりに
 このように、意識決定のプロセスと、執行のプロセスを対比させつつ、その両方が必要であることを示す言葉として、「衆議独裁」という言葉があります。独裁、という言葉に毒があるため、印象が悪く、使いにくい言葉ですが、一度決定した以上は、組織は一体となって執行に邁進する、という意味です。この、ボトムアップとトップダウンの両方の関係を、適切に言い笑わした言葉と思います。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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