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経営の技法 #49

5-11 コストカットによる体力低下
 コストカットをする経営者は、放漫経営をする経営者よりもはるかにマシだが、誤ったダイエットで体を壊すように、誤ったコストカットは会社を破壊してしまう。特に、ビジネスの問題とリスク管理の問題を一体として考えることがポイントとなる。

2つの会社組織論の図

1.概要
 ここでは、以下のような解説がされています。
 第1に、コストカットの問題について、会社、特に内部統制(下の正三角形)を人体に例えて検討する、と問題設定しています。
 第2に、「日本一の優良企業・エーワン精密の強さの秘密」を引用し、普通の会社にとっては余剰人員や余剰生産能力、過剰在庫になることも、エーワン精密にとっては、他社との差別化のための重要な武器であること、スポーツに例えると、マラソンランナーと相撲取りの体格が全く異なるように、競技によって必要な身体能力が異なること、から、内部統制(下の正三角形)でも、競争のために必要な「運動力」まで削ぎ落すのではなく、むしろ増強することが必要である、と説明しています。
 第3に、「東海テレビの『ぴーかんテレビ』放送事故」「ベネッセの顧客情報漏洩事件」「上尾保育所における児童死亡事故」を引用し、過剰なコストカット、特に過剰な人員削減により、リスクに気づく能力が失われた事例があること、から、内部統制(下の正三角形)でも、「免疫力」までそぎ落としてしまわないことが必要である、と説明しています。
 第4に、ぜい肉を削ぎ落すことは重要だが、チャレンジする体力やリスク管理する能力まで削ぎ落さないように、と説明しています。

2.「運動力」という概念
 リスク管理、コンプライアンス、法務、などというと、どうしても危険を察知し、回避することに力点が置かれがちです。
 したがって、これらの部門の人たちは、リストラの場面でも、「少数精鋭で良いじゃないか、営業の人数が多すぎるから、余計な危険を抱え込むんだ」など、「運動力」を削ぎ落すことに協力するような意見を言う場合すらあります。
 けれども、実際にリストラが成功してぜい肉が削ぎ落され、戦える環境になったのに、肝心な競争力まで無くしてしまっては、何のためのリストラだったのかわかりません。会社の復活を期待して会社を去っていった仲間たちに顔向けできません。
 したがって、このような「運動力」を失うこともリスクとして捉え、適切なコストカットプランを考える必要があるのです。

3.おわりに
 会社、特に内部統制(下の正三角形)を人体に例えることは、リスクセンサー機能やリスクコントロール機能を理解するうえでも有効です。
 すなわち、体中に神経が巡らされているからこそ、リスクに気づくので、会社の全従業員がリスクセンサーとしての機能を果たすべきことや、リスクを避けるための行動は本来的な行動の中で一緒に行われることが多く、リスクコントロール機能も現場が責任を持って果たす場面が多いこと、等が説明されるのです。
 会社、特に内部統制(下の正三角形)を人体に例えることは、組織の一部であることに甘んじて全体を見ようとしない従業員に、会社全体の視点を持ってもらう上でも有効です。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月



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