松下幸之助と『経営の技法』#19

 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。

1.3/5の金言
 今日も素直な心で物事を見て対処する。一日一回はそういう気分になりたい。

2.3/5の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 素直な心にならなければならない。しかしそれは、一朝一夕に得られない。
 例えば、朝起きた時に、今日も素直な心で物事を見ていこうという気分になることで、相当にいつの段階でも素直に心が働くようになる。

3.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 「素直な心」によって獲得しようとするものについては、明日(3/6)の金言によって明らかになりますが、ビジネスとして成功する可能性が高くなるだけでなく、社会正義に合致する判断の可能性が高くなり、永続して利益を上げる可能性が高くなることです。
 このような「素直な心」の獲得方法として、松下幸之助氏は、毎日「素直な心」になることを心がけることである、と説明します。
 このことを、経営者個人の問題にせず、会社組織の問題として検討しましょう。経営者に対する金言は、経営者による会社経営を前提にしており、会社組織が経営者と一体として、同じように判断し、同じように行動すべきだからです。
 この観点から見た場合、会社組織が客観的に事態を把握し、社会的に受け入れられる判断ができるようになるためには、一朝一夕では無理であること、日ごろからそのような組織であるように思うこと、すなわち全従業員に対してそのような教育や働きかけ、環境づくりなどを日ごろから地道に息長く続けること、が必要となります。
 すなわち、単に儲ければよい、というのではなく、社会から尊敬されるべき仕事をすることを、日ごろから従業員に言って聞かせることや、経営者自身がそのように心がけ続けることが、内部統制上重要なのです。

4.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 ガバナンス上は、経営者が社会に受け入れられるべき経営を実践すべき経営者を選ぶこと、さらにそのような経営をするように、株主総会や株主の代理人となるべき社外取締役などを通して、チェックし、働きかけることが重要になります。
 特に、社会正義は、経営者が短期的に結果を出そうとすればするほど、疎かになりがちなポイントです。これは、投資家が特に短期的な収益を求めるほど、顕著になります。
 したがって、この金言の前提として、永続的な収益を上げるための経営者の活動を、株主側も容認し、むしろこれを促すことが求められるのです。

5.おわりに
 もちろん、経営者自身の心の在り方も重要です。むしろ、経営者自身の心の在り方について、直接検討しているからです。
 そのことも、松下幸之助氏の言葉が人気の理由でしょう。自己鍛錬し、自分自身が成長することは、経営者として成功する可能性を高めることにもつながるからです。
 けれども、それだけで終わらせるのはもったいないと思います。経営者として成功した松下幸之助氏自身の言葉には、経営に関する背景があるからであり、自己研鑽以上のものが含まれている、と考えるべきなのです。
 どう思いますか?


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?