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松下幸之助と『経営の技法』#285

11/26 王者としての権限と責務

~経営者には、その経営体を限りなく発展させていく権限と責務が与えられている。~

 経営者であれば、経営者はその経営体における”王者”である。そこにおける一切の人、物、資金などを意のままに動かす権限を与えられているのが経営者である。しかし同時に彼は、それらの人、物、資金すべてに対し、愛情と公正さ、また十分な配慮をもって、それぞれが最も生かされるような用い方をし、その経営体を限りなく発展させていく責務を負っているのである。
 もし、経営者にそうした経営体における王者としての権限と責務に対する自覚が欠けていたら、その経営は決して十分な成果をあげることはできない。
 人間は生成発展という自然の理法に従って、人間自身の、また万物との共同生活を限りなく発展させていく権能と責務を与えられている万物の王者である。そのことの自覚、すなわち人間自身による人間観の確立を根底に、個々の経営体における経営者としての自覚をもつ。そういうところから、確固たる信念に裏打ちされた力強い経営が生まれてくるのである。

(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 昨日(11/25の#284)では、人類一般について、万物の王者である、という話を手掛かりに、経営者と所有者(投資家、株主)の社会性について概観しました。
 今日の松下幸之助氏の言葉は、同じテーマについて、特に経営者の在り方を詳しく話しています。
 特に、従業員に関し、松下幸之助氏は繰り返し、(その時点では)使えない従業員も見捨てることなく、使う方法を考える、という趣旨の発言をしています。この点は、昨日も指摘した点です。
 さらに、松下幸之助氏は、物、資金についても、それを生かすことの重要さを指摘しています。
 まず、物です。
 会社経営の中で、物を大事にするということは、製品に関して言うと、製品の品質にこだわりを持つことの重要性を、繰り返し説明しています。自分たちのつくり出した物が、市場を通して評価され、購入してくれた人を幸せにし、社会や国家を豊かにしていく、という図式は、一面で市場の重要性を前提としますが、他面で物を大切にする気持ちを表しています。
 また、会社の工場や設備に関し、それを活用して利益を出させなければ、経営者は失格である、という趣旨の発言をしています。「最も生かされるような用い方」という言葉は、長く大切に丁寧に使う、というような意味よりも、より多くの価値を生み出せるように使う、という意味であることが、このことから理解できます。
 次に、資金です。
 会社経営の中で資金を生かすということについては、例えば、無駄な出費をしないことや、紙一枚の無駄にもこだわる、などの話の中に、この問題意識がうかがわれます。
 さらに、一般的に考えれば、資金を生かすということはそれを有効に投資することが必要です。資金を生かすということは、資金を寝かせるのではなく、また、日常的な事業の運転資金として全て費やしてしまうのでもなく、新しい事業などに投資するなどの活用が必要です。この点については、「これは」という人に投資する類の話はあるものの、事業に対する投資の在り方に関する松下幸之助氏の言葉は、あまり多く取り上げられていないように思われます。経営者にとって、事業への投資は当たり前のことで、わざわざ松下幸之助氏が語るまでもないことかもしれません。
 いずれにしろ、物を生かすということは、長く大切に丁寧に使う、という意味よりも、より多くの価値を生み出せるように使う、という意味でしたが、資金についても、同じことが言えるはずです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者として責任を自覚している点が、ここでは大きなポイントになるでしょう。特に、従業員にどんどん権限移譲する経営モデルを磨き上げてきた松下幸之助氏には、信頼して任せたのに裏切られた経験もあるでしょうが、その場合でも責任を負うのは経営者です。
 経営者の資質として、このような責任感があるからこそ、権限移譲する経営モデルによって従業員が、安心して活躍できる状況が生まれます。このことは、部下に責任を押し付ける管理職者が結局仕事もできず、逆に部下の失敗を責めるのではなく、部下を守ってくれるタイプの管理職者が様々な場面で評価されることと同じです。
 経営者は、全て自分で仕事をするのではなく、組織を通して他人に仕事をさせることで、自分に課されたミッション(適切に儲ける)を果たしますが、他人の能力を引き出すためには、自分が矢面に立って責任を負う、という自覚と、実際の言動が重要なのです。

3.おわりに
 社長は孤独だ、と言われることがあります。
 このように、預かっている人材、物、資金を活用しなければならず、しかもその責任を自分が負わなければならない、と本当に実感していれば、やはり「孤独」に感じるのでしょう。その意味で、松下幸之助氏も孤独を実感する場面が多かったのではないでしょうか。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。



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