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経営組織論と『経営の技法』#230

CHAPTER 9.4:新しいキャリア ③3つの違い
 このような境界のないキャリアは、これまでの組織内のキャリアを歩むことと、どのように異なるのでしょうか。その違いは表9-1にあるように、いくつかの点で示されます。
(表9-1)バウンダリレス・キャリアと伝統的キャリアの違い

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 たとえば、バウンダリレス・キャリアでは、成功や目的は主観的なもので、個人の意味づけによって決まります。一方、組織内でのキャリアを前提とした伝統的なキャリアでは、成功や目的は、たとえばより高い地位あるいは報酬の多寡、といったように、外的なものによって定まることが多いと考えられます。
 また、キャリアのイニシアティブをとる主体も異なります。バウンダリレス・キャリアでは、自分のキャリアを主導するのは自分自身です。自分自身が動かなければ自分のキャリアは変わっていきません。
 一方、伝統的キャリアでは、基本的には組織内での異動という形で組織がそのイニシアティブをとります。また、伝統的なキャリアがキャリアの発展を垂直方向のみで想定しているのに対し、バウンダリレス・キャリアでは、さまざまな方向への発展の可能性を含んでいます。
 成功の基準が主観的ですから、権限や影響力などが強くなるような組織の上位に立つことに限らず、専門性を追求し知識や能力が高まること、あるいはそもそも仕事が楽しいことなど、さまざまな形でのキャリアの発展を考えうるのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』216~217頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 ここで示された違いから、会社組織の外でキャリアを積んできた人に対するイメージの1つが理解されます。
 それは、「仕事の選り好みをする」という印象です。
 これは、自分のキャリアにとって(あるいは生活の糧として)有意義かどうかによって仕事を選んできた面が、人によって程度の差はあるにしても、あります。それが、まずは与えられた仕事をこなすことが最初の課題、認められればそのうちやりたい仕事が増えてくるかもしれない、という会社組織の中で、違いとしてその雰囲気などから伝わってしまうのでしょう。
 けれども、この違いは、会社組織の外でキャリアを積んでいくうえで不可欠な要素であり、それだけで非難できるものではありません。本文で指摘されているとおり、自分でキャリアの方向性(広げるのか掘り下げるのか、など。表9-1の3段目)や、仕事の評価に対する主体性(同1段目)が、会社組織の中でずっとやってきた人から見ると、自由で羨ましく見えるかもしれませんが、そのキャリアがうまくいくかどうかの責任は全て自分個人が背負うことになり、自分で主導しなければなりません(同2段目)。
 逆に言うと、責任を持った仕事をしたいので、責任の持てる仕事かどうかを確認しようといろいろと前提事実を確認したり、進め方に条件を付けたりするでしょうが、それが、「仕事の選り好みをする」という印象につながるのでしょう。
 この傾向も、会社組織に入って、仕事の進め方や自分の置かれた環境に慣れてくると、徐々に薄れてきます。人によっては牙が抜かれたようになりますが、独立心が薄れていくことは、会社組織の多様性や従業員の自律性から見て、損失かもしれません。
 会社組織の運営の観点から見た場合、会社組織の外でキャリアを積んできた人たちを採用し、活用する際のポイントとして、押さえておきましょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 経営者に、生え抜きではない人物を連れてくることは、ここで検討したような事情、すなわち、組織から与えられた仕事をこなしていくことよりも、自らビジネスチャンスを見つけ出してチャレンジしていくことを期待する面が多い場合である、と整理することが可能です。
 けれども、会社の文化や組織とあまりにも違いすぎると、会社組織が経営者を受け止められず、経営者の思うとおりに動かなかったり、変われなかったりします。
 投資家である株主から経営者を見た場合、経営を託す経営者を選ぶ際には、このような点も考えなければなりません。

3.おわりに
 会社組織の外のキャリアを積んできた人たちから見ると、大きな会社でキャリアを積んできた人たちは、外から与えられるものに依存しすぎているように感じる場合があります。
 会社組織の外から即戦力を期待する人を採用した場合には、両者がお互いに相手をどのように感じるのかを理解する必要があります。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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