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松下幸之助と『経営の技法』#348

1/28 自分を動かす大きな力

~運命的な力によって、自分は動かされている。その運命に従いつつ、自分を生かしていく。~

 すべて自分で考え自分で決意したように感じられる電気器具製造の仕事であったが、私にはやはり、そこには何かしら運命的な力が働いているように思えてならないのである。
 いつの時代にうまれあわせても、その時代その時代によって、それぞれに機会を得て自分なりに活動し、自分を生かしてゆくということはできると思う。しかし、ある特定の仕事をなすということは、これはその時代に生まれあわせなければできないわけである。だから、人間は一面では自分の意志によって道を求めることもできるけれど、反面、自分の意志以外の大きな力の作用によって動かされているということを考えることも大切なのではないだろうか。もし、そのようなことが考えられるならば、私はそこから非常に力強いものが生まれてくると思う。
 人間、自分の意志だけで動いていると思うと、何か事があった場合にどうしても動揺しやすい。けれども、もっと大きな力によって自分は動かされているのだと考えれば、それに素直に従ってゆこうということで、ある種の諦めというと語弊はあるが、そこに1つの安心感が生まれてくるのではないだろうか。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資対象ですから、しっかりと儲けてもらわないと困ります。逆に、投資家はそのような経営者の資質を見抜くことが必要です。
 ここでは、自分でコントロールできる部分とそうでない部分がある、という指摘がされています。これは、1/1の#321でも、松下幸之助氏が指摘していたことです。そこでは、自分でコントロールできる部分は10%だ、と話していました。
 さらにここでは、そのことによって、非常な力強さ、動揺しない状態、素直さ、諦め、安心感、が生まれてくる、と説明しています。
 このような落ち着きは、例えば12/6の#295でも指摘されています。そこでは、「人事を尽くして天命を待つ」心境になることで、悩みや争いが無くなる、と説かれています。
 これらに共通するのは、人間的に見た場合、開き直りや悟り、諦めのような心境であり、多くを望まないことにもつながっていくことです。
 ここでは、人生哲学というよりも、経営者の資質の問題として検討しますが、この観点で見た場合には、リスク管理の在り方が的確に示されている、と評価できます。すなわち、儲けるためにはチャレンジが必要であり、そのためにはリスクを取る必要があるのですが、その前提となるリスクコントロールを十分行ったうえでのチャレンジであれば、仮にそれが失敗に終わっても、経営者の法的な責任は減免されます。やるだけのことをやれば、予見可能性と回避可能性が否定される可能性が高くなるのです。
 このような十分な事前検討を、デュープロセスと表現言いますが、それがまさに、「人事を尽くして天命を待つ」ことに他ならないからです。
 すなわち、やるだけのことはやった、と悔いのない状況に至ることで、チャレンジの結果を素直に受け入れることが可能になる、という経営者の心境が述べられている、と考えられるのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 以上のように考えると、組織内部の問題としてのポイントが見えてきます。すなわち、会社に組織としてのリスク対応力を備えさせる、ということです。
 リスクと言っても多様ですから、具体的にどうすべきなのか、業界や会社の状況、さらに部門や担当者の個性まで考慮して決めていかなければなりませんが、大きく分けると、リスクを感じとるリスクセンサー機能と、そのリスクをコントロール(リスクを避けることとリスクを減らすことを含みます)する機能の2つです。この2つの視点で、会社の業務内容や周囲の環境を分析し、対策や組織、プロセスを考えていけば、大体のリスクへの対応は可能です(実行することが大事ですが)。
 つまり、リスクがあるかどうか(センサー機能)、対策が十分かどうか(コントロール機能)を、会社組織が自律的に行うように作り上げていくことが、会社経営として必要なのです。

3.おわりに
 分をわきまえる、という言葉には、積極性がない、という否定的な印象が伴いますが、やるだけのことはやる、という前提条件を合わせて考えれば、会社経営にとって非常に有益であることが理解できます。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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