経営の技法 #62
7-4 現地に与える権限、与えない権限
関連会社の管理を考える際、会社組織の枠組みも重要だが、関連会社のトップに、実際にどのような権限を与え、どのような権限を与えないのか、という内容が重要である。ポイントは、権限に見合う責任も負わせることである。
1.概要
ここでは、以下のような解説がされています。
第1に、関連会社の管理体制に関する「内部統制型」「ガバナンス型」はあくまでもモデルであって、現実に合わせてこれらのモデルを修正するためのポイントを検討する、と問題設定しています。
第2に、日本で成功している外資系企業に共通する管理体制について、特に「ガバナンス型」をベースに、財務と役員人事に関する権限を本社側が掌握している様子を、説明しています。
第3に、海外で失敗している日本企業に共通する管理体制について、特に「内部統制型」を参考に、その弱点を分析しています。
第4に、関連会社の管理体制について、リスク管理以外の面からの分析も必要、と締めくくっています。
2.外資系企業の日本人社長
直接、外資系企業の日本人社長のために働いたことがあるだけでなく、様々な機会に他社の状況も聞いてきました。
たしかに、「雇われマダム」の大変さは、日本企業の社長よりも窮屈そうで、身につまされるものでした。
しかし、外資系企業、特にアメリカの会社の社長はもっと大変です。頻繁に投資家説明会を開催し、全米中、さらにヨーロッパを飛び回っています。多くのアナリストや投資家の前では、常に前向きで信頼できる様子で振舞い、様々な質問に丁寧に応対し、時にはレセプションやパーティーで先頭に立って接待役をこなします。これだけでも、大変な精神力なのに、その合間を縫って会社経営を行い、重大な案件については陣頭指揮を執っています。
それに比べれば、「雇われマダム」が説明責任を負う相手方は、本社だけです。
そして、大幅な権限を与えつつ、これだけのプレッシャーを与えているからこそ、遠く離れた極東の、しかも文化的背景や価値観の全く異なる異国で、事業を成功させているのです。
3.おわりに
他方、日本の社長が、世界的に見るとよほど気楽に見えます。
経営の傍ら、広報対応、IR対応、接待係、これらを自ら積極的にこなしている日本人社長は、少数派です。
社長自身がこの程度ですので、日本企業の海外関連会社の管理も、現地社長を信頼して干渉せず、プレッシャーもできるだけ与えないようにし、優しく見守っている場合が多いようです。
信頼することと、プレッシャーを与えることは、別次元のものであり、この両立が、日本企業の海外関連会社管理での根本的な課題のように思われます。
※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月
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