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松下幸之助と『経営の技法』#346

1/26 知識と知恵

~知識は人間のもっているいわば道具であり、知恵によって運営されるものである。~

 科学や知識というものは非常に進んできたけれども、その知識を用いて人間生活を高めるべき知恵というものは、あまり進んでいないのではないかという気がする。
 知恵と知識とは同じようなものではないかといわれるかもしれないが、知恵と知識とは、ちょっと違うと思う。辞書を引いてみると、知識とは、ある物事について知っているということで、これは誰でも習ったり学んだりして身につけることができる。しかし、これに対して知恵とは、物事の理を悟り、是非善悪を弁別する心の働きであって、これはそう容易く習ったり学んだりすることはできない。自らの経験を積み重ねることによって、体得するものだと思う。
 そして、知識というものは知恵によって運営され、処理されるものである。だから、知恵は人間そのものであるといってもよく、一方、知識は人間のもっているいわば道具のようなものであるといえよう。そしてその点がはっきりと分けて考えられていないというところに、1つの大きな問題があるような気がするのである。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資対象ですから、しっかりと儲けてもらわないと困ります。逆に、投資家はそのような経営者の資質を見抜くことが必要です。
 その観点で見れば、今日の言葉は、知識だけでそれを使いこなせない者に、経営者としての資質はない、という至極もっともなことになります。
 問題はその先にあり、知識を使いこなす知恵は、簡単には身に付かない、経験の積み重ねが必要、という点と、もう1つ注目されるのは、知識と知恵を分けていないことが問題、としている点です。経験の積み重ねだけでは、知恵を身に付けられない、知識と知恵の違いをしっかりと分かっていなければならない、と言うことを強調したいのではないか、と思います。
 例えば、これに限られないでしょうが、どんなに最先端の技術や学問を知っていても、それだけでは駄目だ、という趣旨の発言が他でもされていますので、技術や真理を極めることと、それを実社会で生かすことの両方が必要、という意味も、ここには含まれるでしょう。
 このように、知識と知恵の違いを理解し、知識を使いこなす知恵を有することが、経営者の資質の1つと言えるのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 簡単に言えば、例えばメーカーの場合には、技術を磨く部門と、経営戦略を練る部門の両方の機能が必要である、という見方も可能です。前者が知識であり、後者が知恵です。
 けれども、観念的に知識と知恵を分けられる、ということと、会社組織上の機能として両者を分けてしまうということは別です。特に、技術部門が独自技術に拘り、他方、経営戦略部門が効率性だけに拘り、両者の拘りが水と油のように反発するような事態になれば、会社組織上、非常なロスです。やはり、経営戦略を理解し、それを先取りするような技術開発が必要ですし、会社自身の技術力(あるいは提携先から入手可能な技術力)を熟知しなければまともな経営戦略も描けません。
 観念的にはすっきりと分けることのできる知識と知恵ですが、それを会社組織の中で磨き上げ、発揮させるとなると、上手なブレンドが必要となります。そこが、経営の腕の見せ所でもあるのです。

3.おわりに
 最初の部分に戻ると、松下幸之助氏は、社会に知恵が不足している様子を嘆いています。経営者から見ると、日本では技術ばかりが進み、それを社会に生かす知恵、主に政治や行政の能力が不足しているように見えるのでしょう。松下幸之助氏が「日本」を経営したら、「日本」はどのような国になっていたのでしょうか。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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