松下幸之助と『経営の技法』#280

11/21 ”もう一度”と自らを励ます

~成るか成らぬかの見極めをした上で、自らを励まし、勇気とねばりで挑戦する。~

 世の中は常に変化し流動しているものです。ひとたびは志を得なくても、それにめげることなく、“もう一度やってみよう”と、気を取り直して、再び辛抱強く地道な努力を重ねていく。そうすると、そのうちに周囲の情勢が有利に転換して、新たな道がひらけてくるということもあるのです。世の中でいう失敗の多くは、そういう辛抱ができず、成功するまでに諦めてしまうところに原因があるのではないでしょうか。
 もちろん、そうはいっても、何かにとらわれてただいたずらに1つのことに頑迷に固執するということであってはなりません。1つのことにとらわれるあまり、理にはずれた方向への努力を続けていたのでは、どれほど辛抱強く取り組んだとしても、やはり成果はあがらないでしょう。ですから、成るものか成らぬものかの見極めは必要です。しかし、よくよく考えて、それが理にかなっていると思えば、簡単に諦めてしまわず、”もう一度”と自らを励まし、思いを新たに挑戦していく、そのことが極めて大切なのではないでしょうか。”もう一度””もう一度”、この勇気とねばりが、事態を切り開いていくのだと思うのです。

(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 個人の問題として見ると、私の場合、司法試験受験時代を思い出させますが、ここでは、組織の問題として、松下幸之助氏の言葉を検討します。
 自らを励まして、諦めずにチャレンジを続ける、という場面は、会社組織としても十分あり得ることです。新技術や新商品の研究開発、市場や販路の開拓、などなど。特に組織の場合、失敗が続くと、チャレンジを続けることに対する批判や不安、不満は必ず出てくると考えるべきでしょう。失敗が続くということは、リスクが現実化していることを意味しますから、チャレンジを続けることのリスクがより大きくなります。松下幸之助氏が、「理にはずれた方向への努力」と言っているのは、リスク管理の観点から見た場合、このように評価できるのです。ですから、リスクに見合うだけのメリットがあるのかどうかを確認しようという発想が出てくるのは、むしろ健全なリスク感覚の表れとも言えるでしょう。
 したがって、当初想定した以上に失敗が続く場合には、チャレンジを続けるための前提状況が変ったことになりますから、新たな状況を踏まえたリスクアセスメントを行い、チャレンジするための決定を行うことが、リスク管理上好ましいと評価されます。実際にも、失敗が続くのにチャレンジを続けることに対する批判や不安、不満を押しつぶしたままチャレンジを続けることは、会社の求心力を小さくしてしまい、組織の一体性や継続性に悪影響を与えかねませんから、一種のガス抜きも考えるべきです。松下幸之助氏が「成るものか成らぬものかの見極めは必要です。」と言っていることは、組織として見た場合、このようなプロセスをきちんと踏むことを意味すると考えられるのです。
 けれども、チャレンジを続けるためのプロセスや環境作りはともかく、チャレンジを続ける決断をするのはリーダーです。結局、経営者としての力量が最後にものを言うのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、投資先となる経営者の資質として、「勇気とねばり」が重要であることがわかります。しかも、個人としての「勇気とねばり」だけでなく、会社経営のための「勇気とねばり」ですから、上記のように上手に会社組織を動かし、適切にリスク管理することによって、「会社組織の勇気とねばり」を引き出すことも必要となります。
 具体的に見てみましょう。
 上記のとおり、お膳立て(リスク管理)を会社組織が行いますから、リスク管理が適切に行われるような組織作りと運営が必要です。そのうえで、意思決定は然るべき機関(特に経営者)が行いますから、経営者には決断する胆力が必要です。さらに、その決断に従って会社組織が粘り強くチャレンジを続けるように、会社の組織体制やプロセスの構築、社風作り、社員教育などを行い、さらに、実際にチャレンジを続けさせる継続的なフォローも必要です。
 このような能力が、経営者の資質として重要になってくるのです。

3.おわりに
 失敗してもチャレンジを続けることは、1つのドラマです。傍から見るほど簡単なことではありませんが、チャレンジが無ければ会社の成長はありません。しかも、大した苦労もせずにスマートに儲けられる「うまい話」は、世の中にそんなにたくさんはありませんから、「勇気とねばり」はビジネスそのもの、ということも可能です。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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