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経営の技法 #31

4-4 性悪説とロイヤルティ
 日本と欧米を比較する際にマスコミが好んで用いる図式に、「性善説vs性悪説」があるが、これはイメージだけで拙速な判断をしてしまう危険を伴うものであり、経営の分析ツールとしては使い物にならない。

2つの会社組織論の図

<解説>
1.概要
 ここでは、以下のような解説がされています。
 第1に、「性善説vs性悪説」の図式に対する問題提起を行っています。
 第2に、似た図式である「一様説vs多様説」を「性善説vs性悪説」と対比し、問題点を明らかにしています。
 第3に、「性善説vs性悪説」では説明できない現象として、欧米企業が重視する「コミュニティ」を説明しています。
 第4に、「性善説vs性悪説」では説明できない現象として、日本企業では当然のことと思われ、欧米企業では育てなければならないことと思われている、「ロイヤルティ」を説明しています。
 第5に、内部統制(下の正三角形)の観点から見ても、「性善説vs性悪説」の視点ではなく、「一様説vs多様説」の視点が必要であると説明しています。

2.「性善説vs性悪説」の背景にあるもの
 本書の解説から明らかなとおり、「性善説vs性悪説」の最大の問題点は、「善」「悪」の価値評価が伴う点です。そこに、評価者の主観的評価が織り込まれてしまいます。
 たしかに、「一様説vs多様説」でも、自分と他人の違いを浮き彫りにしてしまう効果があります。そのことによって、「このようなタイプの人は好き」「このようなタイプの人は嫌い」という評価につながることもあるでしょう。
 けれども、「好き」「嫌い」の感情と、「善」「悪」の評価は異質です。自分が「嫌い」であっても、社会にとって有益で必要なことはたくさんありますから、「嫌い」なことを敢えて攻撃したり排斥したりしない限り、個人の内心の自由の範囲です。他方、「善」「悪」は社会的評価であり、「悪」とレッテルを貼ってしまうと、社会的に排斥すべき対象であると評価したことになってしまいます。
 内部統制(下の正三角形)の観点から見た場合、社会環境が多様性の方向に向かっていますので、会社の風土や制度も多様性を取り込んでいかなければ、会社は生き残れません。
 会社が多様性を取り込んでいくためにも、異質なものに「悪」とレッテルを貼ってしまう「性善説vs性悪説」を採用すべきではないのです。

3.おわりに
 「多様性」という言葉を聞くと、八方美人でなければならない、という印象が伴います。
 しかし、「多様性」は、まずは自分と他人の違いを認識することから始まります。八方美人には、自分と他人の違いに目をつぶり、自分の個性を殺してでも他人に迎合するようなイメージが伴いますが、「多様性」は、他人の個性と同様、自分の個性も大切にしなければなりません。当然、全員を好きになることは不可能ですし、全員と仲良くすることも不可能です。
 けれども、あいつは自分と違うタイプの人間だし、どうしても好きになれないけれども、会社にとっては必要な人間なのだ、という受容が必要です。
 そのためにも、「性善説vs性悪説」から卒業しましょう。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月


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