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松下幸之助と『経営の技法』#350

1/30 人生の妙味を味わう

~刻々に移りゆく人の世の定めに心を乱さず、それぞれの務めを謙虚に真剣に果たしたい。~

 時には静かに流れゆく雲の姿を仰ぎ見たまえ。早く遅く、大きく小さく、白く淡く、高く低く、ひと時も同じ姿を保ってはいない。崩れるがごとく崩れざるがごとく、一瞬一瞬その形を変えて、青い空の中ほどを、さまざまに流れゆく。
 これはまさに、人の心、人の定めに似ている。人の心は日に日に変わっていく。そして、人の境遇もまた、昨日と今日は同じではないのである。今日、安泰であったとしても、それがそのまま明日の安泰にはつながらない。明日は思わぬ災難に、思わぬ悲運を嘆かなければならぬかもしれない。朝、悲運の心で家を出た人が、夜に思わぬ喜びを抱いて帰らぬとは誰が断言できるであろう。刻々に移りゆく人の世の定めに、人は喜びもし、嘆きもするのである。
 喜びもよし、悲しみもまたよし、人の世は雲の流れのごとし。そう思い定めれば、あるいは人の心の乱れも幾分かはおさまるかもしれない。そして、喜べども有頂天にならず、悲しめどもいたずらに絶望せず、こんな心境のもとに、人それぞれに、それぞれの務めを、謙虚に真剣に果たすならば、そこにまた人生の妙味も味わえるのではなかろうか。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資対象ですから、しっかりと儲けてもらわないと困ります。逆に、投資家はそのような経営者の資質を見抜くことが必要です。
 経営者の資質として見た場合、ここでは非常にバランスのとり方の難しい話をされていることが理解できます。
 すなわち、一方で、喜怒哀楽は良いが、他方で、行き過ぎ(有頂天や絶望)はダメ、ということが指摘されているのです。
 後者の問題点は、最近繰り返し検討してきたところですので、説明するまでもないでしょう。
 他方、前者が「よし」とされる理由について、意外に感じる人がいるかもしれません。経営者たるもの、冷静で、喜怒哀楽から超越すべきではないか、と考える人がいるからです。
 けれども、感情を含む感性も、経営者のツールです。
 もちろん、何の裏付もない単なる思い付きや我がままは、経営者の資質として不要なことで、むしろ有害ですらあります。
 しかし、例えば職人が緻密な仕事を積み重ねた結果獲得する感性は、非常に鋭いものがあり、それだけで非常に価値があります。経営でも同じで、丁寧な仕事を積み重ねてきた経営者が直感的におかしい、と感じるところがあれば、そこで感じたことを分析してみると、何か問題点に気づくはずです。すなわち、本当に優秀な経営者は、感情を含む感性まで、自分自身のためのツールとして使いこなすのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 これを組織として見た場合、1つ目は、経営者の感性を受けとめ、活用できるようにする、トップダウンの流れをスムーズにすべき問題と捉えることが必要です。せっかく経営者が素晴らしい感性を持っていても、組織がそれを受けとめられず、活用できなければ、意味が無いことです。
 さらに、2つ目は、組織自体が各従業員の感性を活用し、ボトムアップの流れを活用できるようにする必要性です。例えば、リスク管理に関して言えば、リスクセンサー機能として会社の全従業員が、それぞれの役割りに関するリスクを感じとり、それを素早く正しく伝達する必要があります。人間の体に例えると、体中に張り巡らされた神経が、蚊に刺されたような微細な情報も漏れなく関知し、伝達することで、大きなリスクを回避していることと似ています。そして、このようなボトムアップ型の情報伝達は、現場の全従業員の感性と意欲がカギになります。さらに言えば、同じことはリスクに関する情報だけでなく、儲け話になるような情報についても同様です。市場の動向や、顧客の反応など、現場の各担当者でなければ気づかない情報やヒントがたくさんあるからです。
 このように、人間がもつ感性を軸に組織の在り方を見た場合、トップダウンとボトムアップは両立しなければならないことが理解できます。

3.おわりに
 喜怒哀楽は良いが、行き過ぎ(有頂天や絶望)はダメ、という言葉に戻ってみましょう。以上の検討を踏まえて振り返ってみると、喜怒哀楽に振り回されるのではなく、むしろ自分がこれをグリップすることが重要、と説いているようにも思えてきます。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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