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松下幸之助と『経営の技法』#349

1/29 苦情が結ぶ縁

~苦情やお叱りはありがたいものである。誠心誠意の対処で新たな縁が結ばれる。~

 苦情を言ってくださるというのは非常にありがたいことだと思います。そのおかげで縁が結ばれるわけです。苦情を言わない方は、そのまま”あそこの製品はもう買わない”ということで終わってしまうかもしれません。しかし不満を言ってくださる方は、その時は”もう買わない”というつもりでも、こちらからでかけていくと“わざわざ来てくれたのだなあ”と話しもし、それで誠意が通じます。ですから、こちらの対処の仕方次第では、かえって縁が結ばれる場合が多いと思います。
 もちろん、お叱りをいただいた場合、それを放っておいたり、こちらの対処の仕方が悪いと、これは縁切れになってしまいます。ですから、お叱りを受けた時は”これは縁が結ばれるぞ”と考え、これを丁重に扱って、不満の原因をつかむとともに、誠心誠意対処するということでなくてはなりません。苦情を厭わない、というより、これを1つの機会として生かしていくことが大事だと思うのです。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資対象ですから、しっかりと儲けてもらわないと困ります。逆に、投資家はそのような経営者の資質を見抜くことが必要です。
 市場で競争をしている会社の置かれた状況、すなわち顧客である消費者の支持によって勝敗が決まり、消費者の支持を失うと退場せざるを得ない状況で、消費者の支持を得るためにその意見を改善のために活用する、ということは、今となっては誰でも理解できることです。
 経営者の資質として見た場合、このようなビジネスの置かれた状況を正確に理解することが当然必要でしょう。けれども、特に技術に自信のある会社の場合、自分達が提供する技術が市場で認められなければ、市場が未熟なのだ、となかなか市場の反応を認め、受け入れようとしない場合があります。
 これを聞くと、不思議に思うかもしれませんが、実はこのような姿勢、すなわち市場に迎合するだけではない姿勢も重要です。というのも、マーケティングは現在明確になっている市場のニーズを追いかけるだけでは駄目だからです。市場のニーズの中には、消費者が気付いていないものもあり、このような潜在的なニーズを掘り起こすことも重要です。むしろ、このようなニーズの掘り起こしに成功した会社が、先行者利益を享受でき、既存のニーズだけを追いかける会社は、ずっと後塵を拝することになってしまうからです。
 したがって、既に顕在化しているニーズと、潜在的なニーズのどちらに狙いを定めるのか、も含めた競争戦略が重要となり、顕在化したニーズだけを追い求めるビジネスモデルの限界を理解する必要があるのです。
 とはいうものの、潜在的なニーズを狙う場合でも、市場の反応は重要です。新たなニーズを掘り起こすだけのインパクトがあるのかどうか、市場の反応はとても重要な情報だからです。違うのは、顕在化したニーズの場合と、潜在的なニーズの場合とでは、市場の反応を評価する方法や評価軸が違い得るという点でしょう。けれども、いずれの競争戦略であっても、市場の反応を粗末に扱っていては、市場の評価を得ることは難しく、生き残ることが難しくなるのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 会社組織は、このような経営戦略を実行するツールですから、経営戦略を企画立案する機能だけでなく、市場の反応などを踏まえた見直しや改良が行われるような機能も必要です。しかも、見直しを行い、改良を重ねていくサイクルは、思い付きで散発的に行われるよりも、継続的、自律的に行われることが重要です。
 このような会社組織上の機能は、特に日本の製造業の場合、カイゼン活動、QC活動などの名称で、かなり早い段階から組織的に実践され、大きな成果を上げてきました。さらにそれが、アメリカの会社でも採用されてシックスシグマと言われるような活動として体系化され、このシックスシグマが日本の会社に逆輸入されている場合もあります。
 顧客の苦情などの市場の反応を改善に役立てるという活動を、会社組織に埋め込むことが、会社経営にとって重要なことなのです。

3.おわりに
 ちなみに、松下幸之助氏が最初のヒット商品は、電球用の二股ソケットでした。「一戸一灯契約」の時代に、電球を付けながらアイロンもかけられる、という画期的な商品だったのですが、当初は全く売れずに辛い思いをした、と述懐しています。
 これこそ、今で言うベンチャー企業であり、競争戦略で言えば、顕在化しているニーズではなく、潜在的なニーズを掘り起こす競争戦略です。このような競争戦略であっても、市場の反応がとても重要なのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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