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松下幸之助と『経営の技法』#366

2/15 平常心が大事

~大惨事を引き起こさないためにも、お互いに平常心、平静心が不可欠である。~

 時間に追われて慌ててしまい、信号も見ずに車道へとび出し、ちょうどそこへ来た車にはねられてケガをしたり、時には命までも失うというような例も実際には少なくありません。また、車の運転者のほうでも、急ぐあまりに無理な追い越しをして事故をひき起こし、多数の死傷者を出してしまった、といったことを頻繁に起こしています。
 たとえ命のやりとりをする戦いの場はなくなったとしても、このような命のやりとりとでもいうべき好ましからざる姿が続出していることを思うにつけ、平常心、平静心というものが、今日においても必要不可欠であると痛感されます。
 さらに、人との交渉の際などにおいても、また試験を受けたりスポーツ競技に参加した場合などにおいても、同じように平常心、平静心というものが大事になってくるのではないでしょうか。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資先です。しっかりと儲けてもらわなければ困りますが、投資家も、経営者の資質を見極めなければなりません。
 そして、経営者にこそ平常心や平静心が重要、ということが指摘されます。
 さらに、昨日2/14の#365の続きの問題として検討すると、今日の問題は、特に「リスクコントロール機能」に関する問題となります。昨日は、リスクを怖がるだけでなく、メリットも考える、という方向での話でしたが、今日は、リスクに実際に対処する際の心構えです。リスクに気付いたとき、慌てて逃げだすことを考えるのではなく、落ち着いてリスクの実態を見極めなければなりません。これを回避するために過剰反応することを防ぐだけでなく、昨日検討したように、リスクの裏側にあるチャンスに気づくかもしれないからです。
 この意味で、平常心や平静心は、リスクに直面した場合に、「リスクセンサー機能」「リスクコントロール機能」の両方を適切に機能させるために必要な、とても重要なツールなのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 会社内部の問題も、昨日の延長で考えてみましょう。
 すなわち、リスクに対して過剰反応してしまうのではなく、冷静に対応する組織を作り上げることが、会社経営にとって重要となります。
 もちろん、危機に対して迅速に対応することも重要です。機を逃せば、事態はより一層悪化し、チャンスは二度と手に入らなくなるからです。ですから、いちいち組織や手続きを形式ばって整えることばかりがリスクマネージメントではありません。
 そうすると、リスクマネージメントと経営の迅速性や柔軟性をどのように両立させるのか、どのような場合に前者を重視して慎重に検討し、どのような場合に後者を重視するのか、という組織やルール、プロセスの作り方が問題になります。
 これは、会社が大きくなるにつれ、常に問題になる会社経営の永遠の課題の1つですが、1つのヒントは、全てについてプロセスで回答を出そうとするのではなく、人材を育て、権限をどんどん委譲していき、咄嗟の判断や小さな判断は現場に任せてしまう、という方法があります。この方法すら硬直化してしまっている会社がありますが、本来は、このような2つの矛盾を克服する方法として考案され、実行されてきたものですから、その在り方を見直してみると良さそうです。

3.おわりに
 これで、1年間分、全て検討しました。長らくお付き合いいただき、ありがとうございました。
 松下幸之助氏の言葉は、人生訓や人生哲学、生き方教室、のようなニュアンスで取られることが多いようですが、この連載では、松下幸之助氏の人格や人徳についてではなく、それを形作った経営者としての経験や知恵、能力などについて光を当てて分析してきました。
 どう思いますか?
 なお、連載開始当時の原稿については、今となってみると不十分なところもあるので、時折見直しながら訂正していきたいと思います。引き続き、よろしくお願いします。

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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