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経営組織論と『経営の技法』#319

CHAPTER 12.3.2:古典的組織変革のプロセス ③変革その1 トップによる変革
 変革の段階では、具体的な変革が行われます。このときにその変革は、2つの主体によって行われることが考えられます。
 1つは、トップによるものです。トップが進むべき道を示したり、具体的な変革の道筋を作ることで変革が行われます。いわゆるトップダウンによる組織変革です。トップが新しいビジョンを示すことなどはその一例です。
 一方で、トップダウンによる変革は組織の末端まで浸透しない可能性があります。笛吹けど踊らず、面従腹背、さまざまな言葉がありますが、トップが変革に熱心でも現場レベルでは何も変わっていないということは、少なからず起こることです。
 これは、現場が日々の仕事に追われていることに原因があります。組織変革は部屋の間取りの変更のように、数日で完成するものではありません。変革が実行されている間も、日々の組織活動は行われていきます。そのため、変革に準じた業務の変更は部分的なものになり、なかなか抜本的な変革は明確な成果の改善につながらない限り、難しくなります。結果的にトップが変吊の号令をかけても、現場レベルまでにその変革が浸透しないことや、見かけだけ変革しているということが起こってしまうのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』277~278頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 トップダウンで組織が一体的に動くことは、内部統制の1つの大きな目標です。
 これはどういうことかというと、会社組織は、経営者のミッションの「適切に儲ける」を実行するツールであり、経営者の指示通り一体となって活動することが必要なのです。
 もちろん、会社組織は経営者の奴隷の集団ではありませんから、非人間的な支配や命令まで許されるわけはありません。労働基準法などを遵守し、従業員の生命や健康を確保することが必要です。
 また、単に無謀な賭けをすることも許されません。ビジネスは、リスクを取ることが必要ですが、かといって博打ではありませんので、リスクを適切にコントロールして経営として合理的な判断をしなければなりません。組織が一体として活動する前に、リスクをコントロールした適切な意思決定プロセスが必要ですし、活動の際も無謀な活動をしてコントロールできないリスクを増加させるわけにはいきません。
 さらに、会社やそのビジネスが社会に受け入れられなければならず、会社が良き市民にならなければ会社は持続的に事業を継続できません。そのため、社会のルールや道徳観に反したり、顰蹙を買ったりする活動をするわけにはいきません。
 このように、会社組織の活動には様々な制約があり、この制約に反する活動には相当程度のリスクが伴います。そして、しっかりとした会社組織を作ると、会社組織自身がリスク対応力(リスクセンサー機能とリスクコントロール機能)を備えることとなります。そうすると、既存のビジネスを止めたり、新しいビジネスを始めたりする場合には、それぞれについてどのようなリスクがあり、それを避けるべきかコントロールしてチャレンジすべきかを見極め、必要な対応をすることとなります。
 つまり、経営トップからの指示であろうが、それが事前に十分なリスクコントロールをされていない案件の場合には、会社組織がそのリスクコントロール機能を発揮して必要なリスク対応をしますので、簡単には組織委として動き出せません。言わば、パソコンが新しいソフトをインストールする前にウィルスチェックをする機能を発動させ、さらに必要な初期設定を求めるようなものです。
 このように、トップダウンで機能が一体的に活動することが組織の1つの理想の機能であるものの、組織が健全であり、トップの指示が事前の検討を経ないものであれば、必要な検討が済むまでの間組織は動き出すことができません。トップの指示があっても組織がすぐに動き出さない原因にはいくつかあるでしょうが、その原因の中には、このような組織のリスク対応力が機能した、健全な場合もあります。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、経営者には、会社を経営する能力として上手に会社組織を作り上げ、機能を磨き上げていくことが期待されます。
 具体的には、経営者がリスクを取ってチャレンジするために、必要なリスク対応をして決断のお膳立てをする機能であり、意思決定プロセスで見れば会社は多くの視点からの意見を集約していくプロセスと見ることができます。
 これに対して、決定された事項を実行する場合には、それこそまさに一体的な活動が必要です。十分検討した上なので、いまさら文句を言わずに迷わず目的に向かって突き進む必要があります。
 このように見ると、経営者が作るべき組織は「衆議独裁」という言葉で表すことができます。
 すなわち、意思決定過程では「衆議」として、多くの情報や意見を吟味し、決定事項を実行する場面では「独裁」として、組織の一体性を確保します。
 経営者には、このような組織を作り、実行させる経営能力が求められるのです。

3.おわりに
 このように見ると、トップからの指示に対してすぐに会社組織が反応しない場合であっても、それは事前に行われるべきだった「リスク対応」が行われている場合があり得ます。
 逆に言うと、「衆議」を尽くし、リスク対応が十分行われた場合には、それだけ多くの部門や担当者が関与していることになりますから、経営の決定に対する反応速度も上がるはずです。
 したがって、健全な会社組織の場合、前回検討した「解凍」のプロセスは「衆議」のプロセスである可能性が高いと言えるでしょう。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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