松下幸之助と『経営の技法』#347

1/27 成功の原則

~働かずして成功することなど普通はない。働く量に応じて成功するのが原則である。~

 僕はもうあと80年生きて天寿を全うし、もっと儲けようと思って今、一所懸命やってますねん。若い人はそういう意欲を強くもって、希望をふくらまして、成功を信じて仕事に取り組んでいくことですな。
 小利口に儲けることを考えたらあきません。世の中にぼろいことはないから、結局流した汗水の量に比例して成功するわけですわ。汗もかかずして、成功するということもたまにはありますけど、それは極めて僥倖な人で、普通はない。だから一番熱心にやる。そうすると部下が熱心にやっている社長の姿を見て、何とか我々もやってあげないかんというて、期せずして皆がよく働くようになる。若い経営者はそれで成功すると思います。
 だから成功を信じて、自分が先頭に立って率先垂範してやる。考え方ややり方はいろいろありましょうけれど、原則としては、働かざる者は成功しないでしょう。知恵を働かすか、体を動かすか、何か働かさないといかん。その働く量に応じて成功するということやと思います。極めて簡単やと思いますな。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 今日のテーマは、部下を動かす方法です。ここで松下幸之助氏は、自分が率先して働くことで従業員がついてくる、という趣旨の話をしています。これは、あれこれうるさい指示をするよりも、黙って「背中」を見せることの方が効果的だ、という考え方で、家庭での子供の教育と共通する発想です。
 この発想の有効性については異論のないところでしょうが、ここで特に注目されるのは、「若い経営者はそれで成功すると思います」と述べている点です。
 この部分、1つは、文字どおり若いうちは苦労しろよ、という意味があるでしょう。頼れる右腕などが育ってくれば、組織運営を任せ、自分はゆったりと大局を見据えた仕事に専念できるようになるかもしれません。そのような、優雅で素敵な経営者になるためにも、若いうちは自分自身が先頭に立ち、自分の背中を従業員に見せなければならない、という評価ができます。
 2つには、1つ目の裏返しですが、若いうちに信頼できる仲間を作っておかないと、後で苦労する、という意味があるように思います。例えば、大会社では新人が大量に採用されますから、「同期」社員のネットワークができます。競い合うライバルも沢山いるでしょうが、長年、同じ職場で仕事を共にする過程で、何ごとも信頼して任せられる同士も生まれてきます。戦争物の映画やドラマでも見かけますが、取り囲まれたときに背中を預け合い、難局に立ち向かうことができる仲間、つまり背中を預けられる仲間が見つかるのです。
 これは、大きな会社の「同期」を例としたのですが、若い時に事業を興した経営者の場合には、これと違う方法があるはずです。つまり、ここで松下幸之助氏が示すように、自分の「背中」を見せ、頑張っている自分についてこようと思う従業員の中で、自分の「背中」を預けられる、本当に信頼できる右腕が育ってくるはずです。そのためにも、若い時から自分が先頭に立って切り込んでいることが重要なのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資対象ですから、しっかりと儲けてもらわないと困ります。逆に、投資家はそのような経営者の資質を見抜くことが必要です。
 この観点から見ると、創業時に会社に自分自身の考え方や生き様、意識、仕事に取り組む姿勢、等のような遺伝子やベクトル、社風とも言うべきものを、体を張って埋め込み、刷り込んでいくことの重要性が、語られているように思われます。つまり、市場での競争に挑む経営者は、そのためのツールである会社を磨き上げなければいけませんが、そのためには、会社組織がまるで自分のコピーのように考え、行動するようにすることが必要です。組織と言っても、しょせん他人の寄せ集めであり、理屈だけで自分の考えを理解したり、さらに実践したりしてくれるはずがありません。組織が自分の「拡大コピー」として自立的に活動するためには、自分の遺伝子やベクトルを、徹底的に組織に刷り込む必要があるのです。
 このように、組織を動かす手法としても、今日の氏の言葉には重要な意味があるのです。

3.おわりに
 理屈で見ると、組織としても、経営者の資質としても、簡単ではないように思われてきますが、松下幸之助氏は、最後に、「極めて簡単やと思いますな」と言っています。経営の神様だからこそ、と遠慮してしまうかもしれませんが、ここは、氏の言葉を額面通りに受け取って、よし、簡単なのであればやってみよう、自分の「背中」を一所懸命見せつけていこう、と実践しみましょう。やってみなければわからないことが沢山あるからです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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