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経営の技法 #63

7-5 専門家のネットワーク
 関連会社の管理を考える際、関連会社トップの人選や権限なども重要だが、関連会社トップ以外の人選や組織体制も重要である。そこで、本社や各関連会社内の専門家同士のネットワークと機能させ、関連会社トップだけではない複合的な連携網を構築する方法が、参考になる。

2つの会社組織論の図

1.概要
 ここでは、以下のような解説がされています。
 第1に、関連会社の管理方法に関するモデルのうち、特に「ガバナンス型」に関し、その理念形を修正するもう一つの要素として、専門家のネットワークを検討する、と問題設定しています。
 第2に、グループ内の専門家のネットワークは、関連会社に全てを任せるわけではなく、特に「ガバナンス型」の例外になることを、説明しています。
 第3に、例えばリテールの保険会社の法務部は、グローバルで連携しても業務に直接の貢献はありませんが、それでもグローバルのネットワークを作る意味がある、と説明しています。
 第4に、関連会社の管理やグループ全体の運営に必要な情報の収集にも役立つ、と説明しています。

2.関連会社のメリット
 専門家のネットワークができると、例えば外資系の会社の日本法人から見た場合、日本のCEOのコントロールの効かないネットワークが出来上がり、まるでその足元を掬うかのようにも見えてしまいます。
 さらに、本社側が様々な専門家のラインを通して、日本法人の経営に直接関与してくるきっかけにもなりかねません。日本のCEOに経営を任せている、という本社側の建前が、形だけになってしまう危険を伴うのです。
 けれども、日本法人で働くそれぞれの専門家がCEOと一体となっていれば、逆に、日本法人の経営の正当性をそれぞれの専門家のネットワークを通して本社側にアピールすることも可能です。むしろ、CEOを通したレポートラインしかなければ、本社側は、日本法人の状況を知る手掛かりが極めて限られてしまい、事態の変化に対して過剰反応する危険があります。過剰反応は、行き過ぎたドラスティックな政策を押し付けてくることに繋がりかねず、日本法人の経営を不安定にしてしまいます。
 そのようなことを防ぐために、まずは各専門家のネットワークを通して日本法人の状況を把握しておいてもらい、情報不足による疑心暗鬼や過激な反応を未然に防ぐ、というショックアブソーバーの役割が期待されるのです。

3.おわりに
 考えてみれば、日本の会社の、日本国内での支店や関連会社の経営についても、本社側は様々なラインから現地の状況を把握しており、それが本社側からの適切なサポートのきっかけとなります。
 プライドの高いチームであるほど、本社側の干渉を嫌い、情報の共有も嫌います。
 けれども、そのチームの専門性を大事に思うそれぞれの専門家が、本社側と良好なネットワークを作ることこそ、チームの専門性を本社側の干渉から守る砦になるはずです。専門家だからこそ、政治的なブレが小さいからです。
 結局、グループ会社の関連性は様々な要素のバランスの上で成り立ちますので、安全装置の1つとして専門家のネットワークをメンテナンスしておくべきなのです。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月



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