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ショートショート『魔除け札』

私が仕事を終えて家に帰ってくると、来月には後期高齢者といわれてしまう父が、 
 
「おい、明人。ついに我が家にも振り込み詐欺の電話が来たぞ!」
 
なにやら興奮しながら私の名を呼んだ。
 
「えっ、それでどうしたの?」
 
「いやあ、たまたま振り込み詐欺を特集した番組をみていたところだったからな、うちで飼っている犬の名前は? って訊いてみたんだ。そしたら電話が切れてしまったさ」
 
私はひとまず安堵したが、今後のことを考えるとブルーな気持ちになったのだ。なにしろ父はお人好しな人物だったから。
 
私は自分の部屋に戻り、なにか対策を考えなければと思った。そのときにひらめいたのが魔よけのアイテムだった。効果があるのかどうかはわからないが、風水では盛り塩が邪気祓いとして、今も各家庭や飲み屋さんなどではなされていることを知っていた。そこで、とりあえずインターネットで、魔よけの札のことを調べてみたのだ。

すると、「魔封じの部屋」というサイトをみつけた。鬼のイラストが真っ赤な火炎のなかに浮かんでいる、なにやら恐ろしげなサイトだった。そこの掲示板をみると、ストーカーが近寄らなくなりました。くされ縁の恋人ときれいに別れることができました、などと書いてあった。
 
そのサイトには、邪な思いをシャットアウトするお札、というものがあり、その画像をダウンロードして印刷する。その印刷したお札を玄関や電話、携帯電話に貼るだけでよいと書いてあった。私はさっそくダウンロードして印刷し、家にふたつある電話機と、携帯電話、そして玄関に貼り付けてみたのだ。
 
それから一週間経った。
 
まず、来客がなくなった。父は民謡の師匠をしているため、毎日数人の来客があったのだが、誰も来なくなったのだ。電話も鳴らない。私の携帯にも、一日いくつかあった電話やメールが来なくなった。工場の現場でも、誰も話しかけてこない。独立した作業で、誰かと話すこともないので作業そのものは問題なくできるのだが、休憩中や昼食では、会話もなく、まるっきり孤立した状態になってしまった。父もおなじようなものらしい。それで、帰宅してから、親しくしている友人の和夫に携帯をかけてそれとなく訊いてみたのだ。
 
「言いにくいことなんだけどさ。最近、明人にメールや電話をしようと思うだけで頭痛がするんだよ。今もいきなり頭が痛くなっているんだよ」
 
和夫は、もううんざりだというように、私の返事を聞かないうちに携帯を切った。これが魔よけ札の効果なのかもしれないが、すべての人を拒絶するものだろうか。
 
私は改めて「魔封じの部屋」のサイトを覗いてみることにした。しかし、すでにサイトは閉じられてしまったようで、サイトをみつけることができなかった。私は玄関や電話などに貼りつけていたお札をぜんぶはがしてしまった。するとたちまち電話の着信音が鳴り響きはじめたのだ。
 
私は改めて、ネットで霊感占いをしているサイトを調べてみた。そこに、「天使の光」という闇の宇宙のなかに、光輝く星の画像が浮かんでいるサイトをみつけた。どうやらボランティアでさまざまな相談をメールで受け付けしているらしい。私はさっそくメールに画像を添付して相談を書き込み、送信をした。 翌日、そこのサイトを運営している、天の羽と名乗る者からメールが来ていた。
 
「前略。ごめんなさい。あの魔封じの部屋のサイトをやっていたのも私なんです。あのお札は霊感でデザインしたものなんですが、あまりに効き過ぎて、少しでも邪念をもった人をでも拒否してしまうことがわかったのです。それでサイトを閉じてしまいました。まるで邪念のない人ってそうはいませんものね」

           (fin)

オリジナル曲「レインシャドウ」

関東の神社 総集編①


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